「……帰ろうかな」
「ごめんごめん。でもわたしは本当に嬉しいんだよ」
腰を浮かそうとする僕に、今度は手首を掴んで引き止める。
微妙にあいていた間もその時に詰められた。
僕に気づかれた途端、触れてくるとかいい性格してるよ。
隠すのか隠さないのか、どっちなんだよ。
まぁ、成田さんの性格上、隠すことは難しいのだろうけど。
それよりも『嬉しい』の言葉の意味のほうが気になった。
「何が嬉しいわけ?」
「そんなの、瑞季くんが友達と仲良くすることがだよ。わたしや美玲、ジロちゃんやクラスメイトとも」
「仲良い?」
「仲良いよ!楽しく過ごせていたら、それは仲良いんだよ」
「そう」
「ほんと素っ気ない感じ出しちゃって。図星なんでしょ?」
成田さんはどうしていつもこんなに自信に満ち溢れているのか。
いちばん楽しそうなのは成田さんだ。
「瑞季くんの触れた人の余命が見える能力のせいで、人と距離をあけちゃうのもわかる」
いや、僕はわからない。
成田さんが『わかる』ことがわからない。
だって考え方が違うのだから、きっと成田さんは僕の気持ちをわかっていない。
この話をした時、成田さんは僕と反対の意見を述べたのだから。
「でもね、瑞季くんの能力はすごいよ。余命が見えたら、その人のこと守れるかもしれないんでしょ?」
これは僕も思ったことがある。
守れるのではないか。
事前に知っているのだから救えるかもしれない。
「……したことあるよ」
だけど、そんなことはなかった。
僕の能力はすごいものではなかった。
「余命が0の人を守ろうとしたことはある」
あるけど、
「……救えなかった。同じ隣保のおばちゃんが持病はないのに余命が少ないと知って、事故なら防げると思った。理由をつけて近くにいて、運命を変えようと思った」
無理して世間話なんかをして、おばちゃんの近くで行動を見張るようにしていた。
車がいきなり前をすごい速さで通ったり、歩道橋で足を滑らせて落ちそうになったり、不幸なことが起こった。
だけど、すべて何とか回避した。
僕がいないと危なかったことばかり。
事故は防いだ。
そして家に入るのを見て、安心して僕も家に帰った。
僕はこれで救えたと思った。
【0】のままだったけど、今日を乗り越えればきっと変わる。