焦ったように両手を口で押えた成田さんは、謎にきょろきょろとあたりを見回し僕の隣に来た。


「ここに隠れてたんだね」
「うん」

僕と少し距離を置いて座る成田さんを見た。


「ジローは?」
「図書室があるほうの棟に行くのが見えたからこっちに来た」
「じゃあまだ安全かな」
「そうだね」


力を抜いて、再び壁にもたれかかる。
成田さんも同じように力を抜いた。


「ドキドキするね。かくれんぼ」
「そうだね」
「でも、久しぶりにするとやっぱり楽しい」
「僕はもう十分だよ」
「スリルを楽しもうよ」
「それが疲れる」


普段から刺激なんて必要としていないタイプだ。

毎日同じことのくりかえしで、安全安定がいちばんだと思っている。


「もったいないなぁ。どんな状況でも楽しんだもん勝ちだよ」
「僕の分も楽しんでくれたらうれしいよ」
「じゃあ、一緒に勝とうね。美玲すぐ見つかっちゃったみたいだし」
「さすがに早すぎ。幼なじみだから読まれてたのかな」

「ジロちゃんならどんなに遠くにいても、美玲の匂いとかたどっていきそう」
「たしかに。木下さんに関してだと、警察犬より鋭い嗅覚発揮しそうだ」


言って、吹き出す。

想像できてしまうのがおかしい。
想像できるほど、ジローと時間を過ごしてきたんだ。

木下さんの反応も目に浮かぶ。

僕はいつのまにか、ここまで深く他人と関わっている。


「瑞季くんが楽しそうでうれしい」
「…………そう」


考えて出たのは素っ気ない返事だけ。

否定することもできなければ、肯定するのもなんだか悔しかった。

ジローたちのことを思い出して自然に笑みがこぼれた。

もう僕にとって、それくらいの人で、一緒にいて楽しいと思っているんだろう。