「瑞季は先がいい?あとがいい?」
「選んでいいよ」
「じゃあ俺が先行くわ」


僕は体力がないからアップはストレッチ程度で、前屈をしていると話しかけられた。

普通に話してくるけど初会話なんだよな。

いちいち初めて話す、とか気にするのは僕だけなんだろうか。


「瑞季って最近、木下や成田と仲良いよな」
「仲良いというかなぜか一緒にいるだけだけど」
「あと違うクラスの男子も一緒でさ、なんかそこのグループ楽しそうだよな」
「そう」


すごく話しかけてくるな。

さっきまで苗字だと勘違いしていた名前を普通に呼んでいるし。

高校生はみんなこんなふうにフランクなんだな。


「で、どっち?」
「どっち、とは?」

「木下と成田。どっちかと付き合ってんの?」
「それ俺も気になってた」
「わかる。実際どっちなんだろうって」


人数が増えた。

ストレッチをする僕の周りに、興味津々と言わんばかりに近づいてくる。

女子といるとこんなふうに思われるのか。


「どっちとも付き合ってない」
「まじかよ。じゃあ何?」
「普通にクラスメイトだよ」
「えー、俺らもクラスメイトなのに一緒にいてくんないけど」

「瑞季がいいってことは、やっぱりミステリアスだから?」
「謎があるほうが暴きたくなるからモテるのか」
「顔は?瑞季、前髪上げてみて」


3人とも僕のことを名前で呼んで、グイグイくる。

6つの目が僕を捉え、それに抵抗する力のない僕は控えめに前髪を片手で上げた。


「お~、特別イケメンってわけでもないけど、普通にかわいい顔してんな」
「前髪切れよ。俺が切ってやろうか?」
「そのセンスのない前髪にされるほうがかわいそうだろ」
「あ?」


睨みあいが始まり苦笑い。

気まずいな。
僕はどうすればいいのだろうか。

そう思った時、体育教師がホイッスルの音で集合の合図を出す。


「行くか」


そこで睨み合いは終了し、体育教師の前まで軽く走る。

体育座りをして説明を受けてから、1組目がスタートした。