「瑞季くんってあの味が好きなんだ。やばいね」
前の席の成田さんは僕にそれだけ言って、前を向いた。
成田さんの後ろ姿を見つめる。
失礼な人だな。
好みじゃないか。
それに成田さんに引かれるのは気分がよくない。
だから、ちょっとしたいたずら心で、シャープペンの背で首の後ろを突いた。
「ひゃっ」
肩を跳ね上がらせて、驚きの声をもらした成田さん。
その反応に満足して小さく吹き出した。
いつもやられっぱなしだから、こうして成田さんが想像していないことをできるのはいいな。
ちょっとだけ、楽しいと思った。
首を押さえて振り返る成田さんは怒った表情をしている。
「瑞季くん!」
「どうかした?」
「白々しい!」
「成田さんからその単語でツッコミ入れられるのおもしろいね」
「おもしろくないんだけど」
「ほら、先生来たから前向きなよ」
「んむ~、覚えてろよ」
バトルギャグ漫画の雑魚キャラみたいなセリフを吐く成田さん。
そんな様子に口角が上がるのが止まらない。
「にやけすぎ」
唇を尖らせた成田さんが、僕の頬を指でつまんだ。
さすがに予想外で驚く。
「プッ、いい顔」
成田さんに仕返しをされた。
笑っている成田さんに触れられて見える数字。
【18.80】
短いな。
あと、18年。
18年しかないのに、成田さんは瀕死の人や動物がいたら、自分の余命を迷いなく渡すのだろう。
成田さんは余命があと何年かは知らないから。
知っても、変わらないんだろうけど。
なぜか胸のあたりがズキっと痛んだ。
理由はわからない。
けど、どうしようもなく自分でもわからない感情が出てきて、やり場がなくなったから成田さんにデコピンをした。
「いったーい」
「おーい、もう授業始めるぞ。号令」
成田さんが大きな声を出した時、本鈴が鳴り先生が声をかけた。
成田さんお得意のオーバーリアクションのせいでクラスの視線を集めたけど、先生のおかげですぐに号令がかかった。