君が僕にくれた余命363日


「ほら、瑞季。好きなだけとっていいから」
「1つで」


本当なら1つでも嫌だけど。

木下さんは食べてすらいない。

ジローの味覚を信じていないからだろう。

成田さんは好奇心から食べてあの有様だし。

拒否したくなるのも無理はないけど、僕はこのふたりの視線に負けてグミを口に放り込んだ。

口に入れて舌触りを確認してから数回噛む。
弾力がすごくて押し返される。


「どう?」
「美味いだろ?」


木下さんとジローが僕をじっと見てくる。


「めっちゃ噛むじゃん」


成田さんは僕の行動に目を丸くしている。

そういえば成田さんは口に入れた瞬間に変な顔をしていた。

僕はそこまでではない。
むしろ成田さんと反対だ。


「食べられる」
「え?」
「というと?」
「おいしい、かもしれない」


成田さんの反応や木下さんの食べないところから、相当まずいと予想していたけど案外いける。

べつに嫌な感じではない。


「よっしゃー!」

僕の感想を聞いて、ガッツポーズをして喜ぶのはジロー。


「ありえない……」

と驚いて僕を見るのは木下さん。


「これで俺の味覚、認めてくれた?」
「日野も味覚音痴だったとは……」
「え?」
「ジローの味覚にあう人は味覚音痴だよ」
「ちょっと待て、美玲。話が違う」
「心外だけど、本当においしく感じたんだよ」
「瑞季くん音痴ー!」
「音痴だけはやめて。意味が変わる」


わいわい騒いでいると、時間はあっという間にすぎて昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴る。

ジローはにこにこしながら教室を出て行き、木下さんは不服そうに自分の席を戻った。