「だからね、わたしは惜しみなく使いたい。わたしの命を削ってでも、わたしみたいな思いをする人がいなくなるならそれがいい」
「動物は?野生の動物にも?」
「変わらないよ。ほら、あのアイガモの親子だって嬉しそう」
視線を田んぼに向ける。
さっきまで倒れていた大きなアイガモの後ろを小さなアイガモが泳いでいる。
嬉しそう、と言われればそう見えるかもしれない。
倒れている大きなアイガモと、その周りを不安げにウロウロする小さなアイガモを見たから。
「でも、1年後にはさ」
「うん。でもその1年でできることも変わることもある。わたしは、みんなの未来を繋ぐことができるんだよ」
「未来……」
「そうだよ。だから、心配してくれてるのかもしれないけど、わたしは大丈夫」
心配、してるのかな。
なんかピンとこない。
だけど、それ以外の気持ちを表す言葉は今は思いつかない。
少し違う気がするけど、今はそれでいいや。
「大事にしなよ」
「ありがとう」
本当にこれでいいのか。
正直モヤモヤしていないと言えば嘘になる。
それでも、僕が決めることではないし、成田さんがいいならそれでいい。
成田さんの好きにしたらいい。
個人の自由だ。
いつもと変わらない笑顔を向けてきた成田さん。
その笑顔を見ても、僕のモヤついた心は晴れなかった。