こういう話を聞いて寄り添って寄り添ってその雰囲気に呑まれるのもいいけど、それはいつまで寄り添えばいいのかわからない。

重い空気をずっと引きずればいいってものでもないだろうし。


「それでも、聞いてほしいことがあれば話せばいいよ。聞き流すし」
「聞き流すんかい!話すけど!」
「話すんかい」


成田さんと僕のツッコミが交互に行われ、成田さんが再び吹き出す。

顔をくしゃっとしてお腹を抱えて目に涙を浮かべながら笑う成田さんを見つめる。

そんなにおもしろかったのか。

いや、違うな。
やっぱり、両親の話をすることは、彼女にとってつらいことなんだ。

つらくないわけがない。

それでも彼女は僕に話した。
何の意味もなくこんな話はしないだろう。


「それで……」
「あ、」


僕の言葉を遮り、成田さんは一点を見つめて声を漏らす。

その声につられて、成田さんが見つめる先へ視線を移した。

川の向こう側には田んぼがあって、田んぼの端のほうでアイガモが1羽倒れて動かなくなっていた。

その周りに小さなアイガモが数羽いる。

子どもなのだろうか。

動かない大きなアイガモの周りをウロウロしている。

成田さんはコンクリートの横幅50センチほどの橋とも言い難い、少しでもふらつけば川に落ちてしまう橋を怖がることなく進む。


「成田さん!?」


僕の戸惑いの声を背に、畦道(あぜみち)をずんずん歩きアイガモの前にしゃがみ込む。

それでも周りの小さなアイガモたちは逃げない。

こんな細いコンクリートの上を渡るのは怖いけど、僕も成田さんを追うために渡る。

成田さんは微笑んでから目をつぶり、倒れたアイガモに触れた。

少しして、アイガモの羽がぴくっと動き、腹あたりが上下し始める。

呼吸を始めた。
心臓が動き出した。