焼肉屋の前を通り、川と土手に挟まれた車が一台ギリギリ通れるくらいの道に入った時。

前を向いたままの成田さんが無理やり明るくした声で謝罪の言葉を口にした。


「何が?」
「わたし、今日ひとつ嘘ついた」

「……嘘?」


歩きながら、何でもないように言ったセリフに反応が遅れる。

僕は成田さんがついた嘘には気づいていない。

だから突然のカミングアウトに戸惑う。

何を話したっけ?

今日話した中に成田さんの嘘があった。


「わかんない?」


考えたことにより止まった僕を振り返り、首を傾げて尋ねる成田さん。

彼女の顔を見て、もう一度考えたけどやっぱりわからなくて、コクリと首を縦に小さく動かした。


「わたしの両親、いないって言ったでしょ?」
「うん。事故で亡くなったって……」
「その言い方だと、両親とも事故で亡くしたって思ってない?」


まっすぐに見つめられて、生唾を飲み込んだ。

違うのか?

少なくとも、僕はそう解釈をした。

昼休みの時。
『わたし、両親いないんだ。小さい頃に事故で亡くなって』
たしかにそう言っていた。

両親とも事故で亡くしたと考えるほうが自然だろう。


「違うんだよね。事故で亡くしたのはお母さん」
「うん」
「お父さんはお母さんが亡くなったショックで仕事にも行けなくなって、酒やギャンブルに明け暮れて、精神崩壊してわたしを残して自殺した。それからはおばあちゃんにお世話になってる」
「っ………」


想像以上に重い話を、成田さんは何の感情もないように淡々と言う。

息をすることも忘れて、ただ成田さんを見つめることしかできない。

こういう時、どう返すのが正解なのだろうか。

普通の会話でも返答に困ることが多いのに、こんな重い内容の返しなんて僕には荷が重すぎる。