家がわからないから本当に遠回りしているのか僕にはわからない。
さっきまでうるさかったのが嘘のように一言も話さない。
僕の半歩前を行く成田さんについて行くだけ。
気まずい、とは特に感じない。
僕はどちらかというと賑やかよりも静かなほうが好きだから。
でも、成田さんらしくなくて不思議な気分にはなる。
知り合ってから、さっきも、ずっと成田さんはしゃべっていてうるさいくらいだった。
むしろそれが成田さんであって、静かな成田さんは成田さんではない気さえする。
「……成田さんと知り合ってから、僕の世界が変わったよ」
「え?」
どうしても成田さんが無言なんてらしくないから、思わず僕から話しかけてしまった。
僕から話すことだってらしくないのに。
「こんな賑やかな放課後は初めてだった」
「楽しかった?」
「わかんない。でも、嫌ではなかったよ」
「そっか、」
少し声のトーンが上がった。
楽しいかはわからないけど、嫌ではないしあの空間から逃げたいとも思わなかった。
今までの僕では考えられない心情の変化だ。
「成田さんの友達は元気だね」
「ふたりともいい人でしょ?美玲もジロちゃんも距離感が壊れてるけど、だからこそ誰とでも仲良くなれちゃうんだよね」
距離感が壊れているのは成田さんも同じだと思う。
と喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。
「ふたりとも今日初めて瑞季くんと話したとは思えないくらい打ち解けてたでしょ」
「そうなのかな?」
「瑞季くんも、普通におもしろい人だもんね。話しやすいし」
「それは、成田さんが話しやすくしてるんじゃん」
「わたしはそんなにすごくないから」
謙遜か本音か。
何となくだけど、後者な気がした。
声のトーンがふざけた感じではなかったから。
どちらかといえば成田さんはこんな時、「でしょ?」と乗ってきそうだ。
そうして茶化すイメージがあるけど、今は否定した。
きっと、本心。
「瑞季くん、ごめんね」