気づかないほうが幸せなこともあるって聞いたことがあるけど、本当にその通りだ。

この世界は気づかないほうが幸せになれる。

謎は謎のままがいい。

世界の理は知らないほうがいい。


「やった!勝った!!」


教室に響いた明るい歓喜の声にハッとして、反射的にそちらを見た。

じゃんけんで勝ったらしい女子が笑顔でピースをしている。



「さすが花純(かすみ)!」
「いい席当てなね」


席替えだけにどんだけ必死なんだよ。


「じゃあ、成田(なりた)から順番に引きに来て」
「はーい」


じゃんけんで勝った彼女は、肩くらいまでの黒髪を揺らしながら席を立ち、教卓まで行く。

一度両手を合わせてお祈りするようにしてから、箱に手を入れてくじを引いた。

彼女に続きどんどん教卓へ行きくじを引いていく。

前の席の人が立ち上がってすぐに僕も立ち上がり教卓へ向かう。

極力クラスメイトにぶつからないように、細心の注意を払うけど、くじを引き終わった人とすれ違う時に当たってしまった。


……気が滅入る。


誰にも気づかれないようにため息をこぼしてから、くじを引きすぐに自分の席へ戻る。

引いている間に担任がホワイトボードに描いていた座席と番号を確認する。

僕が引いた数字は、窓側のいちばん後ろの席と一致した。


よし。

机の下で拳を握る。

僕にも、席替えで喜ぶくらいの気持ちは持っていたらしい。


「みんな引いたな。では、移動!」


その声に合わせて、カバンを持って新しい席へ移動する。

僕はもちろん誰にぶつからないよう細心の注意を払いながら、身を細めて窓側のいちばん後ろの席へ行く。


ここならあまり人も来ない。

ぼっちの僕にこそ相応しい席だ。