……めんどくさい。

これは関わりたくない類の面倒事だ。


逃げていいかな?
逃げたいな。


「おい、待てよ」


一歩後ずさる僕の次の行動が読めたのか、彼は僕の手首を掴んだ。

その時に見えた数字に驚く。

【84.10】

彼もすごく長生きをする。

101歳まで生きる。

木下さんと同じだ。
何かの運命なのかもしれない。


「何?」


彼の顔をじっと見たせいか、訝しげな表情をする。


「何でもない」
「そう。で、お前は美玲が好きなわけ?」
「は?」
「この際はっきりしろよ」


どの際だよ。
勝手に話を進めないでもらいたい。


「好きなのか?」
「好きというか……」
「は?嫌いでも許さねぇ。好きでも許さねぇけど」
「めんどくさ」


ついに本音を口にしてしまった。

好きも嫌いもだめならどう言えばいいんだよ。

それに、似たような会話、朝もしたんだけど。

木下さんと彼もよく似ている。


「めんどくさいでしょ?だから、こいつはほっといて行きましょ」
「待てよ、嫌だって」
「まぁいいじゃん。ジロちゃんも一緒で。人数多いほうが楽しいよ」
「花純、こいつを甘やかさないで」
「さすが花純!じゃあ、行くぞ」
「はぁ……」


木下さんが大きなため息をつく。

クラスではあまり見ない光景。

木下さん以上のパワーがある人なんてそうそういない。

むしろ、木下さんのパワーを吸い取っているみたいで新鮮だな。

彼は木下さんに腕を回して歩き出す。


「とりあえずファミレスにでも入ろうぜ」
「勝手に決めんな」
「ほら、美玲の分は奢るからさ」
「みんなの分も奢れ?あーもう、ほんと花純も日野もごめんね」


前を歩く木下さんが顔だけ振り返る。

その顔は少し疲れているようにも見えて、おもしろくて笑ってしまった。