「何かあるの?」
「えっと、何かって?」
「それはわからないけど」
「瑞季くんがわからないなら、わたしにはわからないよ」


そう言って笑顔を作る成田さんに、再びどうしても違和感を覚えた。


「笑顔が違う」
「え……」
「勘違いならいいんだ。変なこと言ってごめん」


成田さんから離れて歩き出す。
だけど心の中は黒い靄がかかったみたいに気持ちが晴れない。

頭は勝手に成田さんのことばかり考えていた。


「ちょっと!先行かないでよ」


一瞬、重くなった空気だったけど、成田さんの声でまた軽くなる。

成田さんは声ひとつでこうして空気を変えてしまうのだから、すごい人であり怖い人でもある。


「瑞季くんが先に行くから、わたしは急いで追いかけてきたのに」
「何で?あとで合流すればいいじゃん」
「どうやって?」
「そんなの連絡をとるなり……あ」


そういえば、僕は成田さんの連絡先を知らない。

もちろん、木下さんのも。

なんならクラスメイトの連絡先も知らない。

今時、そんな人がいるのかと思うけど、それが僕だ。


「ね?わたしたち、連絡の手段ないの。だから、追いかけてきた」
「うん、ごめん」
「いいよ。あとね、これを機に交換しよう」
「……いいけど」
「やった」


素っ気なく返したのに、両手を上げて大袈裟に喜ぶ彼女。

何がそんなにうれしいんだろうか。

たかが僕なんかの連絡先で。

そう思いながら、校門を出てすぐの路地に入りスマホを取り出す。

成田さんもスマホを出して素早く操作をしている。


「はい」

画面を向けられるけど、どうすればいいのかわからない。

これは何?
白と黒の四角い、模様?
最近よく見るけど、連絡先交換でもこれを使うのか?