君が僕にくれた余命363日

おもしろくない。
朝から散々だ。

教室に入ろうと体を反転させる。

そんな僕より先に、木下さんはクラスメイトに呼ばれて小走りで教室に入っていった。

慌ただしい人だ。

まるで豪雨みたいな人。
スコールにあった気分だよ。


「仲良くなったんだね」
「さっきの見てそう思う?」
「友達ってそんなもんでしょ」


わからない。
僕にはもうその感覚は薄れてしまっているから。


「瑞季くん」


内緒話をするためか、背伸びをして僕の耳元に口を寄せる。

だから、仕方なく少しだけ屈んで成田さんの身長に合わせた。


「……美玲に触れてたけど、大丈夫だった?」


やっぱりそうだ。

昨日、僕が触れた人の余命が見えるという秘密を教えたから。

そのせいで最悪な気分になることも、他人と距離を置くことも、死の実感がして怖いことも彼女は知っている。

成田さんが暗い顔をするから僕は思わず心配させないように口角を上げた。


「大丈夫。むしろすごい長生きするみたいで、木下さんらしいなって笑えたくらい」
「そっか。それならよかった」


そう言いながら、成田さんは僕の肩に手を置く。

【19.87】

昨日から1日だけ減っている。

規則的な減り方でホッとしたと同時に、すぐに肩の手を外した。


「いちいち触らないで」

さっきの心配は何だったんだよ。

気を遣ってくれたかと思えば、わかっていて自ら触れてくる。

思わず横目で睨むように彼女を見下ろす。


「瑞季くんには知っててほしいから」


いたずらに笑う彼女はやっぱり残酷で、呆れて返す言葉も出なかった。