君が僕にくれた余命363日



「木下さんも、あんたってやめてよ」
「わかった。……って、名前何だっけ?」
「…………」


どうせ僕は影が薄いよ。

ずっとひとりでいたし、名前を憶えられていないなんて、僕の狙い通りみたいなものだ。

だけど、ここまで話して少し熱くなったりなんかもしちゃってさ。

そのあとにこれって、どうなんだ……。


「……日野瑞季」
「そうだそうだ、そんな感じの名前だった」


そんな感じではなく、その名前なんだけど。

木下さんはきっと、成田さんのことにしか熱くならないんだろう。


「あたしとも仲良くしてね、日野クン」
「…………」
「そこはすぐ返事でしょうが!」

笑ったかと思えば、僕の無言の間にすぐに怒った声を出す。

おっかない。

こんな人が昔だとしても、元気がない時があったなんて嘘だ。

それが本当なら、成田さんはとんでもないことをしてくれた。

元気を与えすぎ。
ほどほどがいちばんだよ。


「はい、握手!」
「えぇ……」
「は?こんなかわいい女子の手を握れるんだよ?ありがたく思いなよ」


さっきのしんみりした雰囲気はどこへやら。

そして、彼女も成田さんと同じで握手を求める。

ずっと一緒にいれば、そういうところも似るのだろうか。

苦笑いを浮かべれば、不服そうな顔をした木下さんが僕の手をとる。


「あたしの手を握れるなんてラッキーだよ。よかったね」
「ソウデスネ……」


両手で僕の手を握る木下さんはニコッと満面の笑み。

怒ったり笑ったり忙しいな。

早すぎる感情の変化についていけず置いてけぼり。