「木下さんも、あんたってやめてよ」
「わかった。……って、名前何だっけ?」
「…………」


どうせ僕は影が薄いよ。

ずっとひとりでいたし、名前を憶えられていないなんて、僕の狙い通りみたいなものだ。

だけど、ここまで話して少し熱くなったりなんかもしちゃってさ。

そのあとにこれって、どうなんだ……。


「……日野瑞季」
「そうだそうだ、そんな感じの名前だった」


そんな感じではなく、その名前なんだけど。

木下さんはきっと、成田さんのことにしか熱くならないんだろう。


「あたしとも仲良くしてね、日野クン」
「…………」
「そこはすぐ返事でしょうが!」

笑ったかと思えば、僕の無言の間にすぐに怒った声を出す。

おっかない。

こんな人が昔だとしても、元気がない時があったなんて嘘だ。

それが本当なら、成田さんはとんでもないことをしてくれた。

元気を与えすぎ。
ほどほどがいちばんだよ。


「はい、握手!」
「えぇ……」
「は?こんなかわいい女子の手を握れるんだよ?ありがたく思いなよ」


さっきのしんみりした雰囲気はどこへやら。

そして、彼女も成田さんと同じで握手を求める。

ずっと一緒にいれば、そういうところも似るのだろうか。

苦笑いを浮かべれば、不服そうな顔をした木下さんが僕の手をとる。


「あたしの手を握れるなんてラッキーだよ。よかったね」
「ソウデスネ……」


両手で僕の手を握る木下さんはニコッと満面の笑み。

怒ったり笑ったり忙しいな。

早すぎる感情の変化についていけず置いてけぼり。