「どういうこと?」
「中1の時、花純と出会ってから、あたしは変わったの。前はこんなに元気じゃなかったし、いつもひとりで、笑うこともできなかった」
想像できない。
元気のない木下美玲なんて。
中学生は多感な時期だしいろいろあったのかもしれないけど。
かく言う僕も、今に変わるきっかけになったのは中学生の時だ。
「そんなあたしに声をかけてくれたのが花純。花純がいなかったら今のあたしはいない」
まるで最近の僕みたいな話だ。
だから今と違う木下美玲の想像はできなくても、なんとなくイメージは明確にできた。
「あんたも花純と同じで、何か隠してる。どこか他人と距離をおく。そんなあんただから、花純に触れられると思った」
木下美玲は成田さんのことをこんなにも思っている。
友情ってこんなに熱く綺麗なんだと、感じた。
木下美玲の想いが伝わってくる。
「あたしは花純が幸せならそれでいい。悔しいけど、あたしじゃなくても花純の心に触れられる人が他にいて花純を救ってくれるならそれでいいの」
「よくわからないけど、僕には無理だよ」
「……そうだよね。ごめん」
僕の言葉を聞いて、力なくカッターシャツから手を離した。
そのまま俯く木下美玲。
「自分ができないことを押し付けようとした……」
「成田さんが何を抱えているのかわからないけど、君みたいな友達がいて幸せじゃないわけない」
「え……?」
「……と、思うよ」
柄にもなくまた熱くなって言い切ってしまい、木下美玲の戸惑いの声で付け足す。
何で僕まで熱くなったんだ。
木下美玲の熱が移ったかもしれない。
成田さんも木下美玲も、少し似ているから。
「あんた、すごいね。だから花純もよくあんたと話すんだね」
「君もね」
「てか、君ってやめてよ。どうせ心の中ではフルネーム呼びでもしてんでしょ」
……彼女も勘が鋭い。
いや、ここまでくると、僕がわかりやすいのかもしれない。
僕は他人と距離をとるようになってから、相手をどう呼べばいいかわからない。
それこそ、呼び方なんて距離感を表しているようだから。