君が僕にくれた余命363日



「なんだ。つまんない男だね」
「えっと……」
「花純を誘うとか見る目あるって思ったのに」


この人は何を思ってこんなことを言っているんだろう?

一番の友達が僕と付き合ってもいいと言うのか?

こんな暗くて冴えない僕と。


「最近、花純がやけに楽しそうだったから、昨日はあんたに譲ってあげたのに……」
「それはどうも」
「なのに、告白してないってどういうこと!?」


情緒、大丈夫か?

急に声のトーンが落ちたと思えば、再び頂点まで上がる。

波がひどい。

体ごと僕のほうを向いて、軽く睨むように見ている彼女の迫力は凄まじい。


「告白してないも何も、好きってわけじゃ……」
「嫌いってこと!?あたしの親友を弄んだの!?」

「ちょ、ちょっと待って。落ち着いて。嫌いなんて言ってない」
「言ったようなもんでしょ」


胸倉をつかまれ、至近距離で睨まれる。
怖いって。

軽い恐怖を覚えながら見えた彼女の余命が【84.9】という驚異的な数字に苦笑いしかできない。

木下美玲は101歳まで生きるらしい。

妙に納得できる。

このまま元気な101歳が想像できてしまった。


「ふざけんな。花純を弄ぶなんて許せない」


胸倉をつかまれたまま前後に揺らされる。

脳が揺れて、頭がグワングワンする。


「花純はいつも笑顔で明るくて強く見えるけど、最初からそうじゃないんだよ!」


揺らしていた手が止まり、僕のカッターシャツをぎゅっと強く握る。


「どこか壁を作って他人を踏み込ませないようにしてる」
「…………」

「あたしはわかってても、何もできない。花純と知り合って笑顔をもらって、たくさん救われてるから返したいのに。あたしは花純の抱えているものに触れさせてもらえない」


何の話をしているんだ?

木下美玲にこんなことを言わせるものは何だ?

きっと、成田さんが一番仲の良い友達の木下美玲にも隠していることは、余命を渡せることなんだろう。

だけど、それだけで木下美玲がここまで思いつめるものなのか?

成田さんと木下美玲が普段どんな話をしてどのように関わっているかはわからない。

外から見ていても、普通に仲の良いふたりという感じだから。