「ねぇ、ちょっと顔貸してよ」


いつも通り学校へ来て、自分の席に座ったと同時に落ちてきた影と物騒なセリフ。

他人と距離をあけてきた僕は、こういうことは今までなかった。

ぼっちだったとはいえ、いじめられることはなく、他人が興味を示さないレベルのすごく影が薄いぼっちを極めてきたから。

こうなったのは、成田さんのせいだ。

そう思ったのも座っている僕を見下ろすように見ている人が、成田さんがいちばんよく一緒にいる友達の木下美玲だから。

正直、拒否したい。

この人は見ててわかるけど、気が強い。
僕なんかは押されてしまうだろう。

あまり関わりたくないタイプの人。

拒否したい。

けど、したあとのほうが面倒そう。

そう判断した僕に、頷く以外の選択肢はなかった。


「……うん」


頷いてから立ち上がる僕を横目に、木下美玲は歩き出した。

気分は乗らないまま、彼女の後ろをついて歩く。

言いたいことはなんとなく想像がついている。

というか、木下美玲が僕に声をかけるなんて、それ以外ありえない。


成田さん関連としか。

昨日のことかな。
昨日のことだろうな。

木下美玲の後ろで小さくため息をついた。

そして教室を出てすぐの目の前の階段の踊り場で立ち止まる。


……ここで?


驚いて顔を上げ木下美玲を見る。

彼女は手すりに腕を置き、上から階段を見下ろしていた。


……たしかに、クラスで目立つような集団や他クラスの人と話す時はよくこの場所が使われている。

僕はもちろんここにとどまったことはなく、通路でしかないけれど。


「あんたさ、花純のことが好きなの?」
「……へ?」


直球で聞かれたその質問内容は予想しておらず、不意を突かれて間抜けな声が出てしまった。


「昨日告白したんでしょ?」
「してないけど」
「してないの!?一緒に帰ったのに?ヘタレかよ!」
「え?」


木下美玲の反応に思わず戸惑う。

僕の思ってたイメージと少し違った。

そして、成田さんとテンションが同じで苦笑がもれる。