君が僕にくれた余命363日


それなのに、彼女は笑顔を崩さない。


「あんまり考えすぎないようにね」
「もうひとつ、言ってないことがある」
「なぁに?」
「……自分の余命は、見えないんだ」


触れた人の余命は見える。

だけど、僕自身の余命は見ることができない。

自分で自分の体に触れても数字は浮かび上がってこない。

鏡の前で確認だってしたし、写真を撮ってみたりもした。

それでも僕は、僕だけの余命が見えない。

だから余計に怖いんだ。

死を近くに感じているけど、自分の余命は見えない。

背後に見えない黒いものが迫っている気配だけある。


「へぇ、不思議だね」


僕の不安なんて感じとらずに、軽く返事をされた。

成田さんはそんな人だ。

だから、僕のことを話したのかもしれない。


「うん」
「言っとくけど、それが普通なんだからね?」
「そっか」
「そうだよ。だから、怖がってばかりいないでさ」


どうやら僕の不安は感じとられていたらしい。

やっぱり彼女の分析力の当たる割合は半々くらい。

侮れないな。



「これからも一緒に楽しいことしようよ」
「じゃあ、簡単に他人に余命あげないで」
「簡単にじゃないから大丈夫」


そういうことじゃない。

僕の伝えたいことは、今回は伝わっていないみたいだ。


言い返してやる。

なんて思ったけど、前を見つめる彼女の横顔があまりにも綺麗で、思わず息を飲んだ。


今にも消えそうなくらい儚く、でも確かにここにいると強い存在感を放つ彼女から目が離せなかった。