「……見えてる?」
「……うん」
「……そっか、ごめんね」


小さく謝ると僕から手を離す。
そして、へらっと曖昧に笑った。


「そうだよね。余命が見える瑞季くんは、人の死に敏感になるよね」
「……聞かないの?」
「何を?わたしの余命?」
「うん……」
「気にならないって言えば嘘になるけど、知ってもいいことないでしょ」


その通りだ。
自分がいつ死ぬかなんて、知ってもいいことなんてない。

死をリアルに感じるだけだ。


「だから、瑞季くんだけが知っていて」
「……君は残酷なことを言うね」
「わたしはうれしいよ」


……ほんと理解できない。

この場に不釣り合いな笑顔とセリフ。


「それよりも、瑞季くんについて知りたい」


顔をこちらに向けて、真っ直ぐに僕を見つめる瞳。

僕はこの瞳に弱いと思う。


「……僕はたぶん、生まれた時から触れた人の数字が見えていた。だけど、その数字が余命だと気づいたのは中学2年生の時」


彼女の瞳に促されるように、僕は自分の能力について話し始めた。

誰かに話すのは初めてだ。


「祖父の数字が【0】になった日、祖父は死んだ。初めはおもしろがっていろんな人に触れて数字を見ていたけど、それ以来、誰かに触れることが怖くなった」
「だから、他人と距離をとるんだね」
「そう。仲良くなれば接触が増えるし、いくら何十年先だとしても、余命が見えるのは気分いいものじゃない」
「確かにそれだと、人と関わりたくないよね」


そこは共感してくれるらしい。


「でも、だからこそ関わらないといけないんじゃない?知ってるからこそ、たくさんの人と関わるべきだよ」


本当に残酷なことを言う。


「死が迫っていることを意識したくない」
「じゃあ、触れなきゃいいじゃん」
「少し触れるだけで見えるんだよ。かすめる程度でも、頭に浮かび上がってくる感じで、一瞬なのに鮮明に見える」
「人混みとか大変そう」
「そうだよ。満員電車とか触れたくないのに、いろんな人に当たるから」


相槌を打ちながら、成田さんは僕の話を興味深そうに聞く。

聞き上手だからなのか、僕もひとりでこの能力を隠してきたからか、思わず口が進んでいく。