「だから強く願ったの。息をしていないハムスターを優しく撫でながら」
「うん」
「わたしの1年くらいあげるから、生きてほしいって」
「そうしたら?」
「そうしたら、もう動かない、息もしていなかったハムスターが動き出したの」


本当にそんなことがあるのか。

正直信じがたい話だ。

だけど、僕はすでに見ている。

心臓が止まったはずの人の心臓が動き始めるところを。

死ぬ運命だった人の余命が伸びたところを。



「その時に、わたしは生き物を生き返らせることができると気づいた。まぁ、自分の1年あげるって思って、本当にあげられているとは思わなかったけど」
「…………」
「じゃあどこからだよってね。神の手でも持ってるのかと思ったけど、やっぱり減ってるんだもんね」
「…………」
「でも、すごくない?わたしの願いが届いたってことだもん。思い通りになってるんだよ?」
「……この前みたいに、知らない人にもあげてるの?」


彼女は明るく話すけど、僕はそんな気にはならない。

認めることもできずに疑問をぶつけた。

彼女が明るく振る舞えば振る舞うほど、なんだか虚しく感じる。


「そうだね。死ぬところなんて見たくないし、助けられるなら助けるべきだよ」
「成田さんの寿命を削っても?」
「それで助かるならいいじゃん」


……どうして迷いもなくそんなことが言えるんだ。

死ぬのは怖いだろ。

なのにどうして、言い切れるんだ。

何で『いいじゃん』なんて簡単に言えるんだ。


「人はいつか死ぬんだよ」
「でも、そのいつかは今じゃなくてもいいと思ってる。助ける方法があるのに、何もしないのは嫌だから」
「それで成田さんの余命が尽きるかもしれないんだよ?」


いや、かもしれない、じゃない。

それで余命が尽きるんだ。

他の人を助けて、彼女が死んだら意味ないじゃないか。


「その時はその時だよ。べつに今考える問題でもない」
「何で……」


僕には彼女の考えが理解できない。


「瑞季くんは、怖いんだね」


彼女が僕に手を伸ばし、頭を撫でられる。
同時に余命が見えた。


【19.88】


……怖いに決まってるだろ。

怖くないわけがない。