君が僕にくれた余命363日



「それで、そろそろ教えてよ。瑞季くんは何を隠しているの?」


僕の秘密について話が逸れていたけど、彼女は強引に戻してきた。

言わなければいけない。

彼女の運命を伝えなければいけない。

一度大きく息を吸って、ゆっくりと吐く。

そしてまた息を吸ったあとに口を開いた。


「僕は、触れた人の余命が見えるんだ」


極めて平静を装い言葉にした。

だけど、自分でもわかるほど声が震えていて、平静を装えなかったとわかる。

僕の能力を伝えることは、彼女の余命が少ないと伝えることになる。

彼女の能力で、余命が減っていると伝えることになる。

そんな残酷なこと、平静を保てるわけがない……。


「なるほど。だから気づいたんだね」


だけど、想像していたよりも彼女の声はあっけらかんとしていて、深刻には捉えていない様子。


「ってことは、やっぱりわたしの余命、減ってたんだ?」
「え?」


やっぱりって、気づいていたんじゃないのか?


「あってる?」
「う、うん」
「そっか」


どうして彼女はこの話を聞いても、何も変わらないんだ?

普通でいられるんだ。

内心はどう思っているか知らないけど、表には出ていない。


「減っていることは知らなかった?」
「うん。知らない。そうかな、とは思っていたけど」
「怖くないの?こんなこと言われてさ」
「まぁ、元々この能力を使う時に思ったことが『わたしの1年あげるから』だったし、薄々は勘付いてたよ」
「そうなんだ」

「この際だから、瑞季くんには教えてあげるね」


僕が気になったことを知ってか知らずか、彼女は両手を空へ向かって伸ばす。

体の力を抜いてから、太陽に反射してキラキラする川面を見つめ口を開いた。


「あれは、わたしが小学6年生の時かな。ハムスターを飼ってたんだけど、1年半で死んじゃったの。わたしが飼ってたハムスターの寿命はだいたい2年から2年半なのに、1年半で」


平均寿命より早く死ぬなんて悲しいよな。
人間もペットも、それは変わらない。


「おばあちゃんもめずらしく泣いてて、わたしも大号泣。人間の1年とハムスターの1年はまったく違うんだよね」


人間の1年はあっという間。

平均80年くらいで終わる人間と、2年そこらで終わるハムスターのような小動物。

どちらも同じ一生だけど、比べてしまえばあまりにも儚く感じてしまう。