君が僕にくれた余命363日


人は必ず死ぬ。

それは変えられない事実。


「わたし、そんな話してないよ」


暗くなった雰囲気に似合わない明るめの声のトーン。

あっけらかんとしていて、力が抜ける。


「そんな話でしょ?今生きてることが当たり前じゃないって」
「当たり前じゃないがイコール死ぬって話じゃないよ」


成田さんの言っている意味がしっかりと理解できず、首を傾げる。


「当たり前じゃない。から、今を楽しもうねってことだよ」
「……そう」
「そうなの!もう、すぐマイナスでとらえる。瑞季くんっていっつもそうでしょ?」


そこは否定できない。

常に身近に死を感じるから、僕は何でも諦めてしまうようになった。

どうせ死ぬんだから、何をしても無駄だって。
何かを頑張っても、その先には何もないって。

ただ、虚しいだけだって。



「なるようにしかならないんだからさ、気楽にやりたいようにして、あとは運命に身を任せようよ」


それが、僕にとっては苦痛なんだ。

運命が見えるから。

僕には人の死ぬ運命しか、見ることができないから。


「……成田さんは、気楽にやりたいことできてる?」
「え?」


階段を登りきってから成田さんに尋ねた。

僕の質問の意味がわからなかったのか、きょとんとした表情で僕を見ている。


「気楽に、やりたいことできているの?」


だからもう一度、同じ質問をした。

僕が真剣に聞いているからだろうか、彼女から笑みが消える。


「できてるけど、どうして?」


成田さんも真剣な表情で聞いてきた。

だって、気楽に余命をあげることなんてできるわけがない。

誰だって死ぬのは怖いんだから。

成田さんの質問に答えることができなくて、口をつぐむ。

正直に言うべきか。

いや、言うために今ここにいるんだ。

僕は伝えなくてはいけない。

それが知っている者の使命だと思うから。