人は必ず死ぬ。
それは変えられない事実。
「わたし、そんな話してないよ」
暗くなった雰囲気に似合わない明るめの声のトーン。
あっけらかんとしていて、力が抜ける。
「そんな話でしょ?今生きてることが当たり前じゃないって」
「当たり前じゃないがイコール死ぬって話じゃないよ」
成田さんの言っている意味がしっかりと理解できず、首を傾げる。
「当たり前じゃない。から、今を楽しもうねってことだよ」
「……そう」
「そうなの!もう、すぐマイナスでとらえる。瑞季くんっていっつもそうでしょ?」
そこは否定できない。
常に身近に死を感じるから、僕は何でも諦めてしまうようになった。
どうせ死ぬんだから、何をしても無駄だって。
何かを頑張っても、その先には何もないって。
ただ、虚しいだけだって。
「なるようにしかならないんだからさ、気楽にやりたいようにして、あとは運命に身を任せようよ」
それが、僕にとっては苦痛なんだ。
運命が見えるから。
僕には人の死ぬ運命しか、見ることができないから。
「……成田さんは、気楽にやりたいことできてる?」
「え?」
階段を登りきってから成田さんに尋ねた。
僕の質問の意味がわからなかったのか、きょとんとした表情で僕を見ている。
「気楽に、やりたいことできているの?」
だからもう一度、同じ質問をした。
僕が真剣に聞いているからだろうか、彼女から笑みが消える。
「できてるけど、どうして?」
成田さんも真剣な表情で聞いてきた。
だって、気楽に余命をあげることなんてできるわけがない。
誰だって死ぬのは怖いんだから。
成田さんの質問に答えることができなくて、口をつぐむ。
正直に言うべきか。
いや、言うために今ここにいるんだ。
僕は伝えなくてはいけない。
それが知っている者の使命だと思うから。