「仕方ないから、わけてあげよっか?」
「…………」
「もちろん、タダじゃないよ。わたしと勝負をしてもらいます」
「勝負?」
「今から30分後にメダルが多い人が勝ちっていう単純な勝負。負けたらクレープ奢りね」
「……のった」
「よし、じゃあスタート!」
メダルを再び半分もらい、僕の小さなプライドをかけた勝負が始まった。
最初は相変わらずだったけど、少しずつ慣れてきて大物もとれるようになってきた。
だけど、慣れてくると欲が出てくる。
それは僕も同じで、“50”という数字をもった大きな金の魚が現れた。
ここまでこの単純な金魚すくいだけに時間をかけてきた。
これは取るしかない。
残り時間、10分を切ったところで、僕は超大物に狙いを定めて戦った。
結果……。
「はい、わたしの勝ち。クレープクレープ」
「……接待試合だよ」
「もしそうだとしても、勝ちは勝ち。最後の最後で使い切っちゃうんだもん。熱くなってたね?」
「クレープでしょ。行くよ」
彼女のにやけた顔を見ないようにして、ゲームセンターを出てすぐ目の前のクレープが売っている店へ移動する。
ほんと、柄にもなく熱くなった。
ここまで熱くなったのは久しぶりだ。
いや、案外さっきのショッピングモールに来るまでの道のりぶりだったりするのかもしれない。
彼女のせいで、僕らしくない面ばかり出てきて気持ち悪い。
本当はこういうことをするために、彼女と放課後一緒にいるわけではないんだ。
自分のいちばんの目的を思いだす。
「スペシャルチョコバナナにしようかな」
「遠慮ないね」
「勝者ですから」
勝ち誇った笑みで、いちばん高いクレープを注文した。
小さく息を吐いて、僕の分のジェラートと一緒に会計をする。
「瑞季くん、ありがとう」
「はいはい」
「本当に奢ってくれるんだね。びっくり」
「財布出してないくせに、よく言うよ」
「ははっ。ごめんね」
「べつにいいけど」
奢られる気満々なことくらいわかってる。
友達付き合いがない僕は、毎月のお小遣いだけで多少お金は貯まる。
それに、そういうルールでしていたわけだから、ここでごねたら、それこそすごくかっこ悪い。
これ以上かっこ悪くペースを乱されるのはごめんだ。
「はい、お待たせ」
おばちゃんの店員さんがクレープとジェラートをカウンターに置き、軽く会釈をしてからそれを受け取る僕。
成田さんは「ありがとうございます!」とハキハキとした声でお礼を言って受け取っていた。
ここでも、僕と成田さんの性格が根本から違うと感じる。
近くのベンチに座って、ゆっくりしながらジュースを飲む。
「ん~、やっぱり最高においしい!」
いちばん高いクレープなんだ。
おいしくないと困る。
ニコニコしながら大きな口で頬張る成田さんは、肉食獣みたいだ。
思わずじっと見ていると、僕の視線に気づいた彼女は口いっぱいのクレープを飲み込んでから口を開く。