「へへっ。すごいでしょ?見直した?」
「うん。ちょっとびっくり……」
「そこまで?けっこう簡単だよ。瑞季くん、したことない?」
「ないよ」
「そっか。じゃあ、半分こ。メダル増やすぞ~!」


拳を上へ突き上げ気合いを入れる成田さんは、僕をチラッと見る。

やれ、と?

目は口ほどにものを言う、とはこのことか。


「お、おー……」
「全然だめ。もっかい。やるぞー!」
「オー!」
「できるじゃん」


高く上げた拳が恥ずかしい。

やらないほうが面倒だと、思い切ってしまったけど失敗だったかもしれない。

いや、ぜったいに失敗だ。

放課後ということもあり、同じ制服を着た人がこのショッピングモールにいたのを、エスカレーターで上がりながら見ている。

いつどこで、誰が見ているかわからないのに。

僕らしくない。
成田さんといると、やっぱりペースに巻き込まれる。


「頑張ろうね」


彼女の声を聞き流し、先ほど見たばかりの金魚すくいのゲームをしてみる。

タイミングを見計らってボタンを押すだけ。

単純なゲームだ。

これくらいなら簡単にできるだろう。

さっき、彼女は“10”と書かれた金魚を取っていた。

正直成田さんのペースに巻き込まれてばかりで、僕もいい気はしていない。

だからここは、せめて成田さんよりも大物をゲットしたい。

そんな気持ちで“10”以上のものに狙いを定める。

数字の少ない金魚を数匹見逃しついに、10以上の“14”がきた。


僕は迷わずボタンを押す。


「……あれ?」
「残念だったね」


首を傾げる僕の耳元で、笑いを含んだ声でささやかれる。
むっとして彼女を見ればニヤニヤしていた。


「たまたまだし」
「大物は難しいからそう簡単に取れないよ」


そう言った彼女の手の中のメダルは見るからに増えている。

それを見て余計に僕の競争心に火が付いた。


「ぜったいに取る」
「あと4枚、頑張ってね」


顎を上げて余裕の笑み。

あからさまな挑発だけど、乗ってやる。

成田さんのその余裕の表情、崩すから。


……と思ったけど、呆気なく撃沈。

残り4回のチャンスすべて大物に当てたけど、結局取れずにメダルは一瞬で消えていった。


「あれれ?瑞季くん、もうメダルないの~?」
「…………」
「さっきの威勢はどこにいったのかなぁ?」
「……うるさい」


生き生きとして煽ってくる彼女から顔を逸らす。

だけど、わざわざ回り込んできて自分の獲得したメダルを僕の視界に入るように見せる。

ほんといい性格をしている。