君が僕にくれた余命363日



「さぁ、行くよ。瑞季くんがわたしと帰りたくて仕方ないみたいだからね」
「…………」


少し語弊があるけど、それはこの際どうでもいい。

靴を履き替えた成田さんと一緒に校舎を出る。


「……友達は大丈夫だった?」
「うん!瑞季くんにデートに誘われたからって言ったら、しぶしぶだったけど行ってきなって」
「デートじゃないんだけど」
「デートじゃないの!?」


僕の言葉に大袈裟に声を上げる成田さん。

歩いていた足を止めてまでのリアクションに、僕も足を止めて振り返る。


「わたしのこと、弄んだの……?」


俯きがちに呟いて、僕の顔色をチラッと窺う。
唇を尖らせ、拗ねた表情を作っている。


「……ねぇ、そういうの反応に困る」
「知ってる。そんな瑞季くんの反応がおもしろいからやってる」
「性格悪いね」
「お茶目なだけだよ」
「そういうことにしとくよ」


ここで討論する気はないから、否定はせずに軽く流す。

だけど、僕のその対応が気に入らなかったようで、成田さんは今度は本気で拗ねたような表情をする。


「張り合いがない!」
「張り合うつもりがないからね」
「もう、一緒に帰ってあげないよ?」
「僕の勇気返して」
「え?勇気出したの?わたしを誘うためだけに?」


急に笑顔になる成田さんに、今度は僕がむっとする。


「僕はずっとひとりだからこういうの慣れてないんだよ」

言いながら体を校門のほうへ向ける。


「悪い?」


顔だけ成田さんに向け投げやりに言うと、前を向いて足を進めた。

人を誘うということが、僕にとってどれだけ難しくて大変だと思ってるんだよ。

ぼっち舐めんな。


「悪くない!うれしい!」


ザッと砂を蹴る音が聞こえたから、横へズレる。
と、同時にさっきまで僕がいた位置に来る成田さん。

避けておいてよかった。

そのまま隣を並んで歩く。


「照れちゃって」
「はいはい」
「今日はどこか行くために誘ったの?」
「そういうわけじゃないけど」
「じゃあ、気分いいからわたしがぼっちの瑞季くんに放課後の遊び方を教えてあげるね!」


僕の一歩前に行き、振り返りながら満面の笑みを浮かべる。

彼女はいつでも明るくて、人生が楽しそうだ。


もう……余命は20年切ってしまっているけれど。

暗くなりそうな考えを、軽く頭を振って追い出す。

話すだけ。確認するだけ。

それが今回の目的ではあるけど、僕は成田さんと話していくうちに、成田さん自身にも少し興味を持ち始めているようだ。

彼女が普段何をしているのか。
どう過ごしているのか。
どうして、余命を渡すのか。

僕は興味がある。


「よろしく」


だから、彼女の提案を受け入れる。

僕の返事に満足そうな表情をした彼女は、僕の手をとり走り出した。


「時間は有限。走るよ」
「ちょっ……」


青春ドラマか何かかと思うような展開。

だけど、触れているせいで浮かび上がる数字に、現実を突きつけられる。

走っているせいではない息苦しさを感じ、彼女の手から手を抜き取り、彼女の前を走った。


「遅いね」
「負けない!」


目的地はわからないけど、彼女に触れないために前を走る。