授業中も休み時間も、成田さんのことばかり考えてしまう。
本人は気づいているのか。
そこがいちばん気になるところではある。
余命をあげる能力があることに気づいてはいても、余命が減っていることを本人は知らないのではないか。
僕は触れた人の余命を見れるけど、成田さんにはその能力はきっとない。
いや、あるのか?
だから数字が【0】だった人の元に現われたとか?
ボディタッチが多いのも、そういう理由?
考えだしたらキリがない。
混乱してきた。
やっぱり本人に直接聞くのが、いちばん手っ取り早くて正確だ。
その答えにたどり着いても、行動に移すのが難しい。
またもここで、自分のヘタレさを思い知らされる。
結局、成田さんとは普通に話すだけでなかなか聞けずに1週間が経った。
今日も成田さんの挨拶ついでのボディタッチを受け入れる。
【19.88】
また1年減っている。
もう20年切ってしまった。
さすがにこのままじゃだめだ。
どんどん成田さんの余命が減ってしまう。
今日、ぜったいに話す。
成田さんに聞く。
そう思っても、学校で話していい内容なのか迷っているうちに放課後になる。
自分の行動力のなさに腹立たしく思う。
「瑞季くん、また明日ね」
「あっ」
「ん?」
カバンを持って帰ろうとする成田さんのカッターシャツをつかんで引き止める。
話したい。
話さないといけない。
「……今日、一緒に帰らない?」
「え?」
僕の誘いに、目を丸くして口を半開きにさせる。
本当に驚いているみたいで、そのまま固まる。
そりゃそうだ。
僕は特定の誰かと話したりしないし、誰かと一緒に帰ったりもしない。
常にソロ活動をしてきたんだ。
そんな僕が誰かを誘うなんて、自分でも驚いているのだから。
「花純、帰ろう!」
成田さんの友達が近寄って来る。
「あ、ちょっと待ってね」
その声にやっと動いた成田さん。
一度、友達のほうへ顔を向け、すぐに僕に向きなおる。
「一緒に帰るって、わたしと瑞季くんが?」
「うん」
「ふたりで?」
「できれば、ふたりがいい」
誘ってしまえばもう後には引けない。
こんな勇気を出すのは一度きりでいい。
ここで、この話を済ませておきたい。
「わかった。昇降口で待ってて。美玲に言ってくるから」
「うん。ごめんね。ありがとう」
僕の返事を聞き、にこっと微笑んだ成田さんは友達の元へ行く。
僕は言われた通りに、カバンを持って昇降口へ向かった。
その間も、すごいドキドキしている。
誰かを誘うってこんなにも緊張するのか。
普段、登下校をしたり遊んだりしている人はすごいな。
僕もそんな時期があった気もするけど、もうその感覚も思い出せない。
今までどうやって他人と関わっていたかもわからない。
成田さんの場合は、成田さんからガツガツ来てくれるからその流れに乗っているだけ。
でも、今回は僕が自分で話さなくてはいけない。
流れに乗るだけじゃ話せない内容を、僕から振らなければいけない。
「はぁ……」
考えただけで気が滅入りそうになる。
それでも、知ってしまった限りは、このまま放っておくことはできない。
昇降口で靴を履き替え、成田さんを待つ。
生徒がどんどん通っていく姿をボーっと視界に入れる。
まだ、どんなふうに話を振るかは思いついていない。
「瑞季くん!お待たせ!!」
「うおっ」
成田さんの元気な足音と声と突進に、鈍い声が出る。
そのまま後ろによろけた。
「もう、瑞季くんは弱いなぁ」
「イノシシかと思った」
「ひどい!か弱い女の子に対して、イノシシなんて!ウリ坊くらいにしといてよ」
「変わんないでしょ」
突進された箇所をさする。
一瞬息ができなくなるし、彼女の余命も見えるしで、最悪なコンボ。
身体的と精神的なダメージを同時に受ける。