君が僕にくれた余命363日





授業中も休み時間も、成田さんのことばかり考えてしまう。

本人は気づいているのか。

そこがいちばん気になるところではある。

余命をあげる能力があることに気づいてはいても、余命が減っていることを本人は知らないのではないか。

僕は触れた人の余命を見れるけど、成田さんにはその能力はきっとない。

いや、あるのか?

だから数字が【0】だった人の元に現われたとか?

ボディタッチが多いのも、そういう理由?


考えだしたらキリがない。
混乱してきた。

やっぱり本人に直接聞くのが、いちばん手っ取り早くて正確だ。

その答えにたどり着いても、行動に移すのが難しい。

またもここで、自分のヘタレさを思い知らされる。

結局、成田さんとは普通に話すだけでなかなか聞けずに1週間が経った。

今日も成田さんの挨拶ついでのボディタッチを受け入れる。


【19.88】


また1年減っている。

もう20年切ってしまった。

さすがにこのままじゃだめだ。

どんどん成田さんの余命が減ってしまう。


今日、ぜったいに話す。
成田さんに聞く。

そう思っても、学校で話していい内容なのか迷っているうちに放課後になる。

自分の行動力のなさに腹立たしく思う。


「瑞季くん、また明日ね」
「あっ」
「ん?」


カバンを持って帰ろうとする成田さんのカッターシャツをつかんで引き止める。

話したい。
話さないといけない。


「……今日、一緒に帰らない?」
「え?」


僕の誘いに、目を丸くして口を半開きにさせる。

本当に驚いているみたいで、そのまま固まる。

そりゃそうだ。
僕は特定の誰かと話したりしないし、誰かと一緒に帰ったりもしない。

常にソロ活動をしてきたんだ。

そんな僕が誰かを誘うなんて、自分でも驚いているのだから。


「花純、帰ろう!」

成田さんの友達が近寄って来る。


「あ、ちょっと待ってね」


その声にやっと動いた成田さん。

一度、友達のほうへ顔を向け、すぐに僕に向きなおる。


「一緒に帰るって、わたしと瑞季くんが?」
「うん」
「ふたりで?」
「できれば、ふたりがいい」


誘ってしまえばもう後には引けない。

こんな勇気を出すのは一度きりでいい。

ここで、この話を済ませておきたい。


「わかった。昇降口で待ってて。美玲に言ってくるから」
「うん。ごめんね。ありがとう」


僕の返事を聞き、にこっと微笑んだ成田さんは友達の元へ行く。

僕は言われた通りに、カバンを持って昇降口へ向かった。

その間も、すごいドキドキしている。

誰かを誘うってこんなにも緊張するのか。

普段、登下校をしたり遊んだりしている人はすごいな。

僕もそんな時期があった気もするけど、もうその感覚も思い出せない。

今までどうやって他人と関わっていたかもわからない。

成田さんの場合は、成田さんからガツガツ来てくれるからその流れに乗っているだけ。

でも、今回は僕が自分で話さなくてはいけない。

流れに乗るだけじゃ話せない内容を、僕から振らなければいけない。


「はぁ……」


考えただけで気が滅入りそうになる。

それでも、知ってしまった限りは、このまま放っておくことはできない。

昇降口で靴を履き替え、成田さんを待つ。

生徒がどんどん通っていく姿をボーっと視界に入れる。

まだ、どんなふうに話を振るかは思いついていない。


「瑞季くん!お待たせ!!」
「うおっ」


成田さんの元気な足音と声と突進に、鈍い声が出る。
そのまま後ろによろけた。


「もう、瑞季くんは弱いなぁ」
「イノシシかと思った」
「ひどい!か弱い女の子に対して、イノシシなんて!ウリ坊くらいにしといてよ」
「変わんないでしょ」


突進された箇所をさする。

一瞬息ができなくなるし、彼女の余命も見えるしで、最悪なコンボ。

身体的と精神的なダメージを同時に受ける。