君が僕にくれた余命363日




「急いでるから」

救急隊のひとりに、軽く肩を押されて後ろに数歩下がる。

呆然と立ち尽くす僕だけど、思考だけは巡らせていた。

今日死ぬ運命だった男性。

ふらついて道路に出てしまったんだろう。

そのタイミングで車が来てぶつかった。

僕が着いた時には、男性の心臓が止まっていた。

今日、死ぬ運命なのだから、本来ならそのまま一生目を覚ますことはないはず。

だけど、目を覚ました。

余命が1年増えていた。

彼は、今日、死なない。

呼吸の仕方を忘れたかのように乱れ始める。

頭が痛い。

どういうことだ?

変えられないはずの運命が変わっている。

それって、なんだか……。


「あれ?瑞季くんじゃん」


ビクッと大きく肩が跳ね上がった。

今、まさに僕の頭の中に浮かんだ人物の声。

さっき、必死に人混みをかき分けて、今日死ぬ運命の男性に駆け寄り触れていた人。


「こんなところで会うなんて奇遇だね。野次馬?」
「…………」
「びっくりしたよね。でも、さっきの人、心臓動いたみたいでよかった」


さっきの成田さんの行動を、僕が見ていないとでも思っているのだろうか。

ニコニコと笑顔の成田さんは、さっきの人が生死をさまよっていることを知らないみたい。

いや、逆だ。

あの人が生きることを確信しているみたいだ。

心臓がうるさく音を立てて完全に不整脈になり、体ごと壊れるんじゃないかと思う。


「……さっきの人、知り合い?」
「ううん。知らないよ」


知り合いじゃないのに、駆け寄って触れるのは不自然だ。

加速する心音のせいで、心臓が口から飛び出しそう。

気持ちを整え、浮かび上がった仮定を整理する。


1年という単位。
余命が1年減ったことのある成田さんと、余命が1年増えた男性。

この場に、神が決めた運命を変えたふたりがいたこと。

関係ないと思いたいけど、関係があると結びつけるほうが合点はいく。

もし、もしそうだとするならば……。