君が僕にくれた余命363日


約200メートルの直線を全速力で走る。

交差点には人が集まって、様々な声が飛び交っていた。


「救急車呼んで!」
「俺がします!」
「心臓止まってる!急いで!」
「出血もすごい。止血しないと!」


人の隙間から見えたのは、前が凹んだ車と道路に倒れている人影。

移動して確認するとスーツを着ている、さっき僕が支えた男性だった。


「いきなり道路に飛び出たんだって」
「え?自殺?」
「こんな場所でやめてほしいね」
「顔もやつれてたよ」
「社畜じゃん。かわいそう」


野次馬たちが見た情報を教えあっている。

きっと、飛び出したわけではない。

ふらふらな状態だったんだ。

さっきみたいに倒れそうになったけど、今回は場所が悪かっただけ。



……今回は?


いや、今回も何もない。

だってこの男性の運命は決まっていた。

今ここで死ななくても、今日中にぜったいに死んでしまうんだ。

これは抗えない運命。

胸がズキズキと痛みだす。

もう動かない男性。

たぶん、即死だった。

この光景が苦しくて、気分が悪くて、目を逸らす。


「ちょっとどいてください!道をあけてください!」


目を逸らした先に、焦ったような上ずった声で叫びながら人混みをかき分ける人がいた。

この声を僕は知っている。

最近よく聞く声に引き寄せられるよう視線で追う。

僕には気づかず、肩くらいの長さのサラサラな黒髪を風になびかせて、道路に横たわる男性の元へ駆け寄った。

僕も今だけは人にぶつかることを気にせず、同じように人混みをかき分けていちばん前まで行く。

彼女、成田さんは人目も気にせずに、倒れている男性の横にしゃがみ込んで手のひらを肩に置いた。

強く目を閉じ祈っているような成田さんの周りだけ、今の状況に似合わず空気が澄んだように落ち着いていて、別空間のようだった。

その光景に目を奪われる。

どれくらい時間が経ったのかはわからない。

すべてがスローモーションのように見えて、すべての雑音は水の中にいるかのように遠くこもって聞こえていた。


「心臓、動いたぞ!」
「救急車も到着した!」


その声でハッとして我に返る。

大きな希望の声に、少しだけホッと胸をなでおろすけど、まだ油断ならないとすぐに緊張感が周囲を包む。

成田さんは立ち上がり、救急隊を呼んでいた。