君が僕にくれた余命363日


嫌な予感がしたから、道の端へと移動しようと重心を傾けた時。

目の前の男性の体は僕より早く、体ごと傾き始めた。


「危ない!」


思わず声を上げて、すぐに右手を伸ばして男性を支えた。


「っ……」
「……あぁ、すまないね。最近ちょっと仕事が忙しくて疲れてて」
「……ゆっくり、休んでくださいね」
「ありがとう」


お礼を言った時に向けられた男性の顔はひどかった。

見るからにやつれていて、クマも目立っており、本当に疲れている様子。

横を通り過ぎた男性を振り返り、ふらふらしながら歩く後ろ姿を見つめる。

嫌な予感は的中した。


彼は、今日死ぬ。


さっき触れた時に見えた数字は【0】だった。

どうやって死ぬのかまではわからない。

今の感じだと、病気か過労か。

いつ死ぬかもわからないけど、今日中に彼が死ぬことは決まっている。

彼から目を逸らし歩き始める。

だから嫌なんだ。

僕だけが今日、あの男性が死ぬことを知っている。

どうにもすることはできない。

この運命は変えられない。

知っているのに、何もできない歯がゆさ。

自己嫌悪で押しつぶされそうになる。

早くこの場を去りたくて足を速めるけど、すぐに信号によって止められた。

走って走って、頭真っ白にして、何も考えたくないのに。

さっきの男性の顔とやけに冷たい【0】という数字が頭にこびりついて離れない。

振り切りたい。

全て、忘れたい。

すべての信号が一度赤になる。

ひとときの静寂。




「キャァー!!」


信号が青に変わったとほぼ同時に聞こえた悲鳴。

反射的に勢いよく振り返る。

もしかして、もう?

本当は見たくない。

でも、ほんの一言二言だけでもやりとりをして、僕だけは彼が今日死ぬことを知ってしまった。

このまま見て見ぬふりをするのはなんだか後味が悪い。

僕が行っても、何か変わるわけではないけれど。

気がついたら走り出していた。