嫌な予感がしたから、道の端へと移動しようと重心を傾けた時。

目の前の男性の体は僕より早く、体ごと傾き始めた。


「危ない!」


思わず声を上げて、すぐに右手を伸ばして男性を支えた。


「っ……」
「……あぁ、すまないね。最近ちょっと仕事が忙しくて疲れてて」
「……ゆっくり、休んでくださいね」
「ありがとう」


お礼を言った時に向けられた男性の顔はひどかった。

見るからにやつれていて、クマも目立っており、本当に疲れている様子。

横を通り過ぎた男性を振り返り、ふらふらしながら歩く後ろ姿を見つめる。

嫌な予感は的中した。


彼は、今日死ぬ。


さっき触れた時に見えた数字は【0】だった。

どうやって死ぬのかまではわからない。

今の感じだと、病気か過労か。

いつ死ぬかもわからないけど、今日中に彼が死ぬことは決まっている。

彼から目を逸らし歩き始める。

だから嫌なんだ。

僕だけが今日、あの男性が死ぬことを知っている。

どうにもすることはできない。

この運命は変えられない。

知っているのに、何もできない歯がゆさ。

自己嫌悪で押しつぶされそうになる。

早くこの場を去りたくて足を速めるけど、すぐに信号によって止められた。

走って走って、頭真っ白にして、何も考えたくないのに。

さっきの男性の顔とやけに冷たい【0】という数字が頭にこびりついて離れない。

振り切りたい。

全て、忘れたい。

すべての信号が一度赤になる。

ひとときの静寂。




「キャァー!!」


信号が青に変わったとほぼ同時に聞こえた悲鳴。

反射的に勢いよく振り返る。

もしかして、もう?

本当は見たくない。

でも、ほんの一言二言だけでもやりとりをして、僕だけは彼が今日死ぬことを知ってしまった。

このまま見て見ぬふりをするのはなんだか後味が悪い。

僕が行っても、何か変わるわけではないけれど。

気がついたら走り出していた。