それから成田さんに触れるチャンスをうかがった。
成田さんが先生につかまり、戻ってきたのは本鈴が鳴る直前だった。
授業を受けている背中を見つめる。
触れる口実なんていくらでも作れる。
「服にほこりがついてるよ」と、取る振りをしてもいい。
「ねぇ、成田さん」と、肩を叩いて話しかけるでもいい。
すれ違う時にわざとぶつかることだってできるはず。
触れるなんて簡単なこと。
僕の能力は服越しでもその人が身に着けているものであれば見えるのだから。
だけど、自分からそんな行動をすることは、ぼっちを極めてきた僕にとって、すごく高いハードルとなってしまったようだ。
情けない。ヘタレな自分に呆れる。
でもそれ以上に、触れて真実を知ることが怖いと感じているから、行動に移すことができない。
それはやっぱりヘタレだな。
まぁ、成田さんのことだ。
僕からいかなくても、向こうから来てくれるだろう。
そう思い過ごしていたけど、待ってる時ってどうしてか来ない。
今日も例外ではなかった。
すべての授業を終えて放課後になる。
僕はいつものようにすぐに筆記用具をカバンに入れて、帰る支度を済ませた。
だけど、席を立ち上がって帰ることができない。
できれば、今日中にたしかめておきたい。
どうしたら……。
「瑞季くんがまだ教室いるなんてめずらしいね。帰らないの?」
「か、かか帰るよ!」
前の席の成田さんが立ち上がって振り返り僕を見ている。
成田さんはカバンを持っているから、きっともう帰ってしまう。
チャンスは今しかない。
どうやったら触れられるんだろうか……。