そんなこと言われたって無理だよ。
僕は君がいないと意味がない。
――瑞季くんはわたしのお願いをなんだかんだ断れないもんね。
僕のことをわかってる成田さんが悔しい。
無理だよ。意味ないよ。嫌だよ。
だけど、成田さんのお願いを断るのはもっと無理だよ。
成田さんの笑顔が浮かんでくる。
僕は彼女には敵わない。
時間はかかるかもしれないけど頑張ってみるよ。
君のお願いだから。
成田さんが渡せる余命は1年。
僕がもらってから2日経った。
僕に残された時間は363日。
君にもらった残り363日。
僕は強く生きるよ。
成田さんが亡くなってから今日で1年。
3年生になったよ。
君のお通夜に行ってから363日。
必死で生きたよ。
君がいない日々は物足りなくて、苦しくて、寂しくて。
それでも必死に生きてきたよ。
君にもらった命は今日で尽きる。
僕はどうだったかな?
363日間、ずっととまではいかないけど強く生きられたんじゃないかな?
君が生きるはずだった日々だから、無駄には使いたくない。
だから僕は僕で頑張ったんだよ。
木下さんも辛そうにはしているけど、いつも君のことを想っているよ。
ジローも相変わらず元気で笑顔を届けてくれるよ。
僕たちの中で、君はまだ思い出なんかじゃない。
今もずっと傍にいる。
「瑞季、手紙来てたわよ」
「手紙?」
夜の時間、自分の部屋でゆっくりと過ごしていると、お母さんが部屋に入って来た。
立ち上がって差し出されたものを受け取る。
あの時の怪我ももうすっかり完治した。
たまに痛んだりするけど、問題はない。
ドアを閉めてから、送り主を確認する。
「っ……」
息が止まった。
心臓がドクッと大きく音を立てる。
封筒には≪成田花純≫の文字。
驚いて自分の目を疑う。
何度目をこすっても、見間違いではなかった。
うるさい心臓の音に支配されながら封筒を開けた。
―――瑞季くんへ
これ、ちゃんと1年後に届いてる?
前言ってた超大作の手紙。
必死に書いてます。超超超大作になったよ。
初めてタイムカプセル?みたいな郵便のサービス使ったよ。
日にち指定で送れるやつ。
ちゃんと1年後に届いてたらいいな。
届いてなかったらどうしよう?
まぁ、それでもいっか。
とりあえず、わたしの気持ちを綴っていきます。
最後まで読んでくれたらうれしいな。
まず、約束守れなくてごめんね。
瑞季くんの苗字ほしかったな。
おそろいにしたかった。
でも、わたしは後悔してないよ。
瑞季くんが今これを読んでいるってことは生きてくれているってこと。
すごくうれしい。
わたしは瑞季くんに生きてほしいから。
だからあの時、瑞季くんがわたしを家まで送ったあとに瑞季くんが事故にあったって知って心臓が止まるかと思った。
瑞季くんの様子からしてわたしはあと1年と少しの命しかないってことはわかってたんだ。
瑞季くんのことだから、1年切ればわたしは誰にも余命をあげられないから安心だって思ったんでしょ?
ほんとわかりやすいんだから。
わたしね、瑞季くんのことなら何でもわかるよ。
それほど瑞季くんと一緒にいたし、ずっと見てたから。
だからわたしの余命はもうないって知ってたけど、瑞季くんに渡したの。
迷いなんてなかった。
わたしの命を瑞季くんに渡せることがすごくうれしいよ。
ここまで生きてくれてありがとう。
わたしの命の灯が瑞季くんの中にあることが幸せだよ。
やったね。
だからわたしの命で生きてくれてありがとう。
わたしね、瑞季くんと仲良くなれて本当によかったって思ってる。
ずっと気になってたから。瑞季くんと仲良くなりたいって願ってたから。
だから、席替えで前後の席になった時は運命だと思ったよ。
瑞季くんはやっぱりおもしろくてかっこよくて素敵な人だった。
きっと瑞季くんの秘めた情熱にわたしの心は引き寄せられたんだよ。なんてね。
でも、本当に瑞季くんはかっこいい人だよ。
なんと言っても小学生を助けようとした時、あれはしびれた。
本当の本当にかっこよくて惚れ直した。
瑞季くんは誰かのために一生懸命になれる人だよ。
そんな瑞季くんの姿をいちばん近くで見ることができてうれしかった。
瑞季くんと一緒にいて心に残ってることはたくさんあるね。
さっきの小学生の時のこともだし、初めてふたりで遊んだメダルゲームも。あれは最高だった。
瑞季くん負け惜しみがね、おもしろすぎる。
ちょっとは上手くなってきたけど、わたしには及ばないよ。
美玲とジロちゃんとも仲良くなって、4人でいる時は本当にずっと笑いっぱなしだった。
かくれんぼ、またしたかったな。
なんて思い出をひとつひとつ語っていきたいけど、そしたら瑞季くんはきっと泣きすぎて手紙読めなくなっちゃうよね。
瑞季くんってけっこう泣き虫だから。
そう考えると、わたしのことを心配してよく怒ったり悔しがったり泣きそうになってた。
ほら、わたしが瑞季くんの感情いっぱい引き出してるね。
わたしを見ていつも笑ってくれてたし。
瑞季くんがわたしのこと心配してくれるのもうれしかったよ。
言うこと聞かなくてごめんね。
でもそれも後悔してないから。
わたしは最期までわたしのしたいようにできたよ。
瑞季くんに抱き締められた時はすごくうれしかったなぁ。
あんな状況だったけどドキドキ止まんなかった。
瑞季くんってちょいちょい男らしかったり、かっこいいことするから、わたしはきゅんってなってたんだよ。
気づいてたと思うけど、けっこう前から瑞季くんのこと好きだったよ。
本当に好きなんだよ。
瑞季くんもわたしのこと好きだったよね。知ってるから。
あー、こんなことならキスでもしとけばよかった。
そこは後悔。
でも瑞季くんのことが大好きだから、わたしは瑞季くんにこれからも生きてほしいんだ。
今まで黙ってたけどさ、実はわたし、中学の時に美玲にも渡してるんだ。
美玲は難病を抱えてて余命宣告されてたの。
そんな時に出会って話して仲良くなって。
でも、治らない病気で美玲が動かなくなった時に渡したの。
生きてほしくて強く願った。
わたしは1年しか渡せないはずなのに、美玲はすでに1年以上生きてる。
その1年で美玲の病気の治療法が見つかったんだ。たしか。たぶん。あんまり覚えてないけど。
だから瑞季くんが美玲は長生きするって言ってくれてうれしかった。
奇跡は起きてるんだよ。
瑞季くんも、わたしが命を渡して1年後の今日、死ぬって思ってるでしょ?
きっとね、大丈夫だよ。
瑞季くんはこれからも生きるよ。
だからまた約束して。
強く生きてね。
瑞季くんらしく生きてね。
わたしは瑞季くんの未来を繋いだことがうれしいの。
100年後くらいにお空で話そうね。
その時に、苗字をおそろいにしようよ。
瑞季くんが大好きです。
またね。
成田花純――
手紙を読み終わった時には日付けが変わっていた。
僕は君にもらった363日を生きて、今日364日目を過ごしている。
成田さんが起こした奇跡。
やっぱり成田さんは運命を変えることができる。
そして、運命だけでなく僕の心も変えたんだよ。
浮かんでいた涙をぐっと拭う。
窓を開けて空を見る。
星が輝く夜空に誓う。
成田さんが繋げてくれた未来を僕はこれから生きていくよ。
そして僕も成田さんのことが好きだ。
だから今度こそはちゃんと苗字をもらってよ。
約束だからね。
僕の想いが届いたのか、目の前を流れ星が光った。
やっぱり君には敵わない。