「どこ行くの?」
「トイレ。さすがに止めないでね」
「わたしを変な人みたいに言わないでよ」


僕に言い返してくる成田さんに反応はせず、背を向けて教室を出た。

彼女といるとつい彼女のペースに巻き込まれる。

距離をとりたいのに、本気で距離を詰めてくるから困りものだ。

今のところ、成田さん以外の人と関わりはない。

これをきっかけに人間関係の幅が広がるのは嫌だけど、僕の今までの振る舞い上の結果、その心配はなさそうで一安心。

今までの自分の対応と態度を褒めてあげたい。

問題は、成田さんをどうするか。

余命を知ってしまったとはいえ、いちいち触れて余命を再確認させられるのが僕にとって苦痛なんだ。

そんなすぐに答えが出るわけもなく、教室の自分の席に戻る。



「あ、瑞季くん。待ってた。ここ教えてほしい」


僕に気づくと手招きをして急かす。

歩くペースを変えないまま椅子を引いて座った。

僕がいなくても、振り返ったまま数学のプリントを見ていたらしい。

学業に対してけっこう真面目に取り組む成田さんは申し訳ないけど少し意外に感じた。


「どこ?」


距離をおきたいのに、結局、成田さんのペースに巻き込まれ無意識的に尋ねてしまう。


「ここ」


指さしたところを見るために、頭を気持ち前に出した。

その時、成田さんもプリントを覗き込むように頭を出したため、ゴツンと頭がぶつかった。


「いったー」


すぐに離れて、ぶつかった部分を押さえる成田さんを見る。

涙目になり「瑞季くんって石頭なんだね」と文句のようにつぶやいている。

だけど、僕にはそんなの頭に入ってこない。