「もう、誰にもあげないで。何があっても、どんなことがあっても、ぜったいに」


余命を渡すことのできる成田さん。
死んだ人を生き延びさせることのできる成田さん。

だけど、彼女が死ぬ時は誰も助けられない。
救うことができない。

そんなひどいことがあるだろうか。

今までたくさんの人の未来を繋げた彼女なのに、彼女の未来は繋げられないなんてそんな残酷なことがあっていいのか。


「死にたくないなぁ……」


成田さんの口から初めて聞くセリフ。

他人に余命をすぐにあげちゃうくせに、自分はあまり生にしがみつくことがなかった人。

そんな成田さんから、ずいぶん時間がかかったけどこの言葉を聞けて、少しだけ嬉しかったんだ。


「……生きてよ」


握った手に力を込める。

成田さんに生きてほしいんだ。
僕は成田さんといたいんだ。

これからも、一緒に……。


「おそろいにしようよ。僕の苗字あげるから」
「え……?」
「日野花純。いい響きじゃん」
「っ、でしょ?」
「うん。でも、僕はまだ17だから1年後じゃないとあげられない」


だからね、もうぜったいに誰にも命を渡さないで。
成田さんに生きてほしいんだ。


「1年後に、あげるから」
「……うん!」


瞳を揺らして大きく頷く成田さん。

枯れるほど泣いたはずなのに、僕もまた目が潤っていくから隠すように成田さんを引き寄せた。


「……約束だから」
「……ん、約束」


初めて抱き締めた成田さんは思ってたよりも小さくて、こんなに小さな体で全てを抱え込んでいたのかと思うと胸が締め付けられた。

誰も守れないなら、僕が守りたい。

今度は僕が、彼女の未来を繋げたい。

覚悟を決めて、心に誓った。