どうして僕はこんなに無力なのだろうか。

悔しくてたまらない。

守りたい人を守れない。

それから僕は恥ずかしいくらいたくさん泣いた。

成田さんも一緒に泣いた。

泣いたってどうにもならないことはわかっている。

自分の無力さを知った。
立ちはだかる残酷な運命に絶望した。
変えられないことへの怒り、苦しみ、悲しみ。

行き場のない大きな気持ちが湧き上がる。

強すぎる世界にそれでも抗おうとする意志を強く固める。

でも今は、すべての感情を涙に変えて、泣いて気持ちを落ち着かせようとした。

それ以外の方法は知らなかった。


「瑞季くん」


涙が枯れるほど泣いたあと、成田さんが僕の名を口にする。

成田さんに名前を呼ばれるのは嫌いじゃない。

僕はこの声を、どんな騒がしい場所でも聞き取れる自信がある。


「何?」
「わたし、瑞季くんと距離を距離をとってたじゃん?あれ、瑞季くんのためって思ってるかもしれないけど、違うんだ」
「え?」


僕をまっすぐに見つめる成田さんはもう作り笑いなんてしていない。

透き通るくらい強く綺麗な瞳は僕をしっかり捉える。


「なんかね、今さら怖くなってきちゃったの」
「…………」
「わたしの命を渡して、誰かを助けられるならそれでいいやって思ってた。でもいざその時が近づくと怖くなった」
「……わかるの?」


成田さんは自分の余命はわからないはず。

僕だけが知っているんだ。
僕しか知らないんだ。


「何となく、もうないってことはわかるよ」

否定できない。
だって成田さんの余命はもうないに等しい。

高校は卒業できないと決まっている。

余命を見るのが怖いのに、成田さんに触れたくて彼女の手を握る。