何も言わない彼女にゆっくり手を伸ばす。
心臓は破裂しそうなくらいうるさくて、自分の心音しか聞こえない。
手は過去いちばん震えていた。
避けようとしない彼女は覚悟を決めたかのように瞼を閉じた。
それと同時に、一粒の雫が彼女のスカートに染みを作る。
「っ、んで……」
声が詰まった。
瞬きも忘れ、彼女の横顔を見つめる。
【1.14】
余命があと1年と14日しかなかった。
成田さんに最後に触れたのはいつだっけ?
あの事件の時はたしか13年だったはず。
それがあと、1年だなんて……。
瞬きを忘れた瞳が、鼻の奥がツーンとすると同時に歪んでいく。
「い、いつ?」
「…………」
「誰に……?」
「…………」
成田さんは僕の質問にはいっさい答えない。
どうしてこうなった。
成田さんの12年はどこにいったんだよ。
「ねぇ、成田さん。答えてよ」
彼女の両肩に手を置き、顔を僕に向けさせる。
だけど、俯いて顔を見せてはくれない。
どんな表情をしているのかわからない。
わからないけど、俯き垂れた髪の隙間から雫がポタポタと落ちていくのが見えた。
スカートは色が濃くなってきている。
「何で……っ」
そこで気がついた。
僕が最後に触れたのは、やっぱりあの事件の日。
その日以来、成田さんは僕に触れないようにしていた。
……そういうことか。