君が僕にくれた余命363日


「お兄さん!」


さっき、僕が路地に向かって突き飛ばした女の子が前から来る。

手当てをしてもらったのか、足には大きなガーゼが貼られていた。

腕にも痛々しく擦り傷ができている。


「ごめ……」
「お兄さん、とってもかっこよかったよ」
「え?」
「助けてくれてありがとう」
「っ……」


傷だらけでお礼を言ってくれる女の子を見て思わず涙腺が緩む。

下唇を噛みしめてぐっとこらえた。


「お兄さんもどこか痛いの?」

女の子が僕の頬に触れる。
ついに我慢できなくなり、温かいものがあふれた。


「うっ……ふ、う……」
「お兄さん?」


不思議そうにする女の子だけど、あふれてくるものを止める方法を知らない。

僕に触れる女の子の手をとり、両手で包み込む。


「本当によかった……」


嗚咽をこらえ呟く。


【70.1】


触れている女の子の数字が【0】から変わっている。

変えることなんてできないと思っていた。

成田さんに余命を渡してもらう以外で、変えることができた。

この子はあと70年も生きられる。

神が決めた運命を、僕が変えたんだ。


「お兄さん!」
「大丈夫?」


小学生の子たちが駆け寄ってくる。
みんな擦り傷程度はありつつも、軽やかに走って顔も明るい。


「みんなは?大丈夫?」
「大丈夫!」
「俺すげー速かっただろ?」
「映画みたいだったな」
「こわかったよ……」
「ヒーローは必ず勝つんだよ」
「逃げきれてよかった」


僕の問いに対し、いっせいにいろんな反応を示す。

きっと事の重大さに気づいていない。

でも、それでいい。
この子たちの未来が繋がっただけで十分だ。

怖いことは知らなくていい。

僕の周りに来た子たちに順番に触れていく。