「お兄さん!」


さっき、僕が路地に向かって突き飛ばした女の子が前から来る。

手当てをしてもらったのか、足には大きなガーゼが貼られていた。

腕にも痛々しく擦り傷ができている。


「ごめ……」
「お兄さん、とってもかっこよかったよ」
「え?」
「助けてくれてありがとう」
「っ……」


傷だらけでお礼を言ってくれる女の子を見て思わず涙腺が緩む。

下唇を噛みしめてぐっとこらえた。


「お兄さんもどこか痛いの?」

女の子が僕の頬に触れる。
ついに我慢できなくなり、温かいものがあふれた。


「うっ……ふ、う……」
「お兄さん?」


不思議そうにする女の子だけど、あふれてくるものを止める方法を知らない。

僕に触れる女の子の手をとり、両手で包み込む。


「本当によかった……」


嗚咽をこらえ呟く。


【70.1】


触れている女の子の数字が【0】から変わっている。

変えることなんてできないと思っていた。

成田さんに余命を渡してもらう以外で、変えることができた。

この子はあと70年も生きられる。

神が決めた運命を、僕が変えたんだ。


「お兄さん!」
「大丈夫?」


小学生の子たちが駆け寄ってくる。
みんな擦り傷程度はありつつも、軽やかに走って顔も明るい。


「みんなは?大丈夫?」
「大丈夫!」
「俺すげー速かっただろ?」
「映画みたいだったな」
「こわかったよ……」
「ヒーローは必ず勝つんだよ」
「逃げきれてよかった」


僕の問いに対し、いっせいにいろんな反応を示す。

きっと事の重大さに気づいていない。

でも、それでいい。
この子たちの未来が繋がっただけで十分だ。

怖いことは知らなくていい。

僕の周りに来た子たちに順番に触れていく。