「そこの男性、止まりなさい!」
「君も逃げて!」
やっと到着したパトカーが男性の数メートル後ろに来る。
だけど、男性も足を止めない。
僕も逃げない。
パトカーと男性の距離より、僕と男性の距離のほうが近い。
すべてがスローモーションに見える。
恐怖なんてもう感じないほどハイになって、僕はカバンを大きく振りかぶった。
一発勝負。
そのまま目の前に来た男性に向けてフルスイング。
「ぐぉっ……」
元々すでに大けがなこともあり、容易に命中して鈍い声を出してその場に倒れた。
「はぁはぁ……、」
緊張の一瞬だった。
整えたはずの息もすぐに上がり、力が抜けて崩れ落ちる。
俯く僕の前をパトカーから降りてきた警官が通り過ぎ、倒れている男性を押さえた。
「とりあえず病院に運べ。他にも被害は大きい」
「重傷者多数です」
「手分けして市民の安全確認を」
何台かのパトカー、白バイも到着して、あれよあれよと事が進んでいく。
怪我のない野次馬はこの場を追いやられ、怪我人の対応や状況確認が行われる。
「君も、無理しすぎだよ。ほんとは逃げてほしいし、褒められたことじゃないけど、よく果敢に頑張ったね」
警官が僕の肩にぽんと手を置く。
もう疲れていて、余命とかそんなの気にしなかった。
それよりも気になるのは……。