……そう思っていた自分は、本当に人との関わりをもたなさ過ぎだったんだと知る。
「日野瑞季くん。数学のプリント見せて」
成田花純は席替えをしたその日からよく僕に話しかけてくる。
僕に話しかけたところで楽しくないのに、何を考えているのかさっぱりわからない。
「……はい」
「ありがとう」
受け取ったと思えば、僕の机でプリントを見比べ始める。
僕のように反応も薄く地味でつまらない人に、ここまで何度も普通に話しかけ続ける人がいるとは知らなかった。
こんな人がいることを、人との関わりを狭くしてきた僕は初めて知る。
「ねぇ、ここは何でこの答えになったの?」
「計算ミスしてるよ」
「あ、ほんとだ」
消しゴムで力強く消して、問題を解きなおす頭頂部を見つめる。
「……君はさ」
「君って誰?」
「……成田花純、さんは」
「何でフルネーム?長くない?」
君がそれを言う?
僕のことをずっとフルネームで呼んでいるのは彼女のほうなのに。
顔を上げた成田花純の大きな丸い瞳が僕をとらえる。
「……って、わたしも日野瑞季くんのことを日野瑞季くんって呼んでるじゃーん」
自分で言って自分でツッコんでいる。
何でこんなに楽しそうにできるんだろうか。
関西人でもなかなかしないようなオーバーリアクションで、頭を抱えている。
「瑞季くんって呼ぶことにしよう」
「じゃあ、成田さん」
「えぇ!?そこは花純じゃないんかい!」
またもや、関西人でもしないようなオーバーリアクションで、僕にツッコもうと平手が飛んできたから、身を後ろに引いてかわす。
ファーストネームで呼び合うなんて、仲良いみたいじゃないか。
成田花純にとってはそれが普通のことなのかもしれないけど、僕にとっては普通ではない。
だから、それは普通とは言わない。