どうしてそこまで執着しているのか、という疑問を持つも今は逃げるほうが先。

隙を見て子どもを逃げさせる。

まっすぐ逃げるよりも曲がり角や路地を使ったほうが効果的だ。

酸素が足りなくて苦しいけど、少しの酸素も脳に送り無理やりに思考を止めない。

ぜったいに、助ける。



――――ガシャーン



今まででいちばん大きな耳障りな音が響く。

ハッとして振り返るとトラックは横転していた。


……助かった?

さすがに倒れていたらもう追いかけてくることはないだろう。

ここでやっと足を止めて、呼吸を整える。

酸素を求めて過呼吸になりそうなところを、意識的にゆっくりと呼吸することで防ぐ。


「はぁ、はぁ……もう、大丈夫か?」
「瑞季く、ん……はぁー、そっちは?」
「みんな無事」
「よかったぁ……」


成田さんも呼吸を整えながら、安心したように空を仰いだ。

こんなに必死になって逃げて運命を変えようとしているというのに、空は透き通るような爽やかな青。

地上の異常事態なんか関係ないとでも言うかのように、どこまでも続く青は変わらない。

呼吸も整ってきた時だった。


「キャアアアアァ!!!!」


キーンと耳をつんざくような悲鳴が聞こえる。

まだ、なのか。
これでもだめなのか。

悲鳴が聞こえたところを見ると、つなぎを着た血だらけの男性がナイフを持って立っている。

そして、その男性の前には倒れているひとりの女性。
女性の腹部から赤いものがじわじわと広がっていく。

ゾッとした。
足がすくんだ。


「ヒュッ」


すぐ傍で、息を吸う音が聞こえ視線を向ける。


「パ、パパ……?」
「えっ……」


目を見開いてまっすぐに血だらけの男性を見つめる小学生の男の子に、驚きを隠せない。

今たしかに『パパ』と言った。

じゃあ、あの大型トラックを運転していたのはこの子のお父さんなのか。

どうして狙うんだ?
心臓が嫌な音を立て始める。

荒くなっていく呼吸をどうにか落ち着かせるために深呼吸をする。