「どうなってるの?」
「事故、かな。成田さんはどうして」
「瑞季くんのことが気になってやっぱり追いかけようと思ったの」

呼吸を整える成田さんの周りに小学生が集まってきた。


「お姉さんだ」
「さっきの見た?」
「超びっくりしたよな」


成田さんはその子たちを軽く受け流す。

めずらしい行動だけど、今はそれどころではないと気づいているからだろう。


「瑞季くんは、誰を見たの?」


後方でエンジン音が聞こえる。

だけど、ここで成田さんに言うのは躊躇われた。

言ったら成田さんは残り少ない命を渡すだろう?

小学生だけでも多いのに野次馬も増えてきているせいで、どれだけの人が今日死ぬ運命なのかわからない。

想像するだけでも恐ろしい。


「そんなことより早くここから逃げないと」


僕は小学生を逃がすことに決めた。

野次馬をしている人の中にも【0】の人がいるかもしれない。

でも、違うかもしれない。

そこに気をとられるよりは、確実にわかっているこの子たちだけでも助けたい。


「早く行くよ!成田さんはそっちの子をよろしく」


僕は転んだ女の子を再び抱える。

その時、勢いよくバックしてトラックがまた大きな音を立てて建物にぶつかった。

クラッシュ音にも負けないくらいの悲鳴が上がり、振り返ってトラックを見ると、方向転換をしてこちらに正面が向いている。

狙ってるのか?
そう思った瞬間、いっきに加速する。

やばい!


「逃げて!!」


トラックにぶつかるよりは、と抱えていた女の子を下ろして路地のほうに突き飛ばす。

思いきり転んでしまったけど、それでも今は加減をしてあげる余裕も心配して駆け寄る時間もなかった。

トラックが小学生の子たちに向かって一直線に迫って来る。

僕が怖がっている場合ではない。

できるだけ子どもたちをトラックが来れないところに誘導する。


「成田さんはそっちに」
「わかった!」


子どもたちを半分にして、少しずつ分断していく。

その間もトラックは建物、車にぶつかることをおかまいなしに小学生を追う。