君が僕にくれた余命363日


「すごくかわいかったな。小学生ってパワフルだよね」
「成田さんも変わらないけど」
「若いってこと?」
「好きにとってくれたらいいよ」
「出たそれ。瑞季くんはいっつもそうだよね」
「悪い?」
「悪くない!けど、たまには瑞季くんの本心も聴きたいとは思う」


本心なんて出せない。
だって僕にはそこまで強く思うことはない。

譲れないこともない。

ただ、あるとしても成田さんは聞いてくれない本心になる。


「……あ、忘れ物した」
「え?」
「財布、引き出しに入れたんだった」
「貸すよ?」
「成田さんに借りをつくりたくないし、さすがに財布を学校に置きっぱなしは怖いから戻るよ」
「じゃあわたしも行くよ」
「ひとりで大丈夫だから、先に行ってて」
「ちょっ……」


成田さんの声を背に僕は走って来た道を戻る。

神が決めた運命だ。
変えることなんてできない。

でも、成田さんは変えることができる。

変えられないと思ったことを変えたんだ。

僕だって、できるなら変えたい。

成田さんの力を借りず、彼女の余命を削らず、僕ひとりの力で変えたい。

走って行くと小学生の集団の後ろ姿が目に入る。
よかった。まだ大丈夫だ。

僕に何ができるかはわからない。

それでもまた、変えたいと思った。

成田さんのが移ったのかもしれない。
僕だけが知っている。

今を笑顔で生きているこの子たちの運命を。

最悪な運命なんか変えてしまえ。

そのために僕は余命が見えるんだ。
そう信じたい。

走って行き、小学生の集団まであと数十メートル。

この子たちを家まで見届けよう。
みんな余命が今日か明日か明後日か。

きっと今から起こる事故か事件で命を落とすことになる。

今日を何とか越せても、重症だから日付けが変わり完全に息を引き取ることになるんだろう。

そんな予想がつく。

だから、このみんなが一緒にさえいなければ死ぬことにはならないはず。

事故か事件を避ければいいんだ。
僕が守ればいいんだ。

走り続けてあと数メートル。
息も上がってきて苦しい。

でも、守るためには傍にいたほうが確実だ。

あと少し。もう少しだ。


――――ブウォォゴゴゴゴゴ~~