「ふたりとも行こう~!」
放課後になるとすぐに木下さんが僕たちの席に呼びに来る。
「ごめん、美玲。日直なのに日誌書くの忘れてたから、急いで書く」
「じゃあ手伝うよ」
「瑞季くんに手伝ってもらってるから、美玲は先にジロちゃんと向かってて」
「待つのに」
「ジロちゃん、グッズも欲しいって張り切ってたから早く行きたいだろうし」
「あーたしかに。じゃあ行ってるね。花純を頼んだ」
「うん」
木下さんに返事をして、僕は教科書をペラペラとめくる。
成田さんが日誌を書く担当で、僕が今日した授業の範囲を伝える担当。
役割分担をして急いで日誌を終わらせる。
「よっし!10分かからず終わった!」
「感謝してよ」
「うん!明日の瑞季くんの日直、手伝うね」
「よろしく」
約束をとりつけてから、日誌を提出するために職員室に向かう。
僕は職員室前で待って成田さんと一緒に学校を出る。
「ジローってグッズまで買うんだ」
「毎年パンフレットは必ず買ってるんだって」
「それはすごいね」
どちらかと言えば大人よりも子ども向け。
小さい頃、ほとんどの人がそのアニメを通ったけど、高校生になってそこまで好きな人はめずらしい。
「子ども心を忘れてないんだよ」
「ジローは子どもか」
「子どもでしょ。美玲はお姉さんみたい」
「確かに兄弟みたいだけど、ジローに言ったら怒られそうだな」
「ぜったい怒るよ。ジローってほんと美玲ラブだから」
僕たちにはジローの気持ちがすごく伝わっているけど、本人には伝わっていないんだよな。
あそこまでアピールされている木下さんは気づいている様子がない。
不憫だな、ジロー。がんばれ。
と心の中でエールを送る。
「あ、美玲からメッセージ来てる。『早く来て』だって」
「僕も来た。ジローから。こっちは『ゆっくり来い』だって」
「どうする?」
「じゃあ間をとって、ちょっと早歩きで」
「何それ?どれくらい?」
「これくらい」
僕の思うちょっと早歩きを披露する。
振り返り成田さんを見れば、なぜか笑っている。
「何で笑ってんの?」
「いや、おもしろすぎて」
「笑わせようとしてないけど」
「だからこそ、余計におもしろいんじゃん」
成田さんに笑われるのはやっぱり僕がおもしろくない。
「じゃあ、成田さんの見せてよ」
「まず瑞季くんの真似を見てよ」
そう言った成田さんはカバンをしっかり脇に挟むように持って、頭を前に出して大股で歩き出す。
うん。変だ。
「ぜったい僕はこんなんじゃない」
「やばいでしょ?瑞季くん、こんなんだったから」
「違うって」
否定するのに、さっきから変な歩き方をやめない。
まるで幼稚園児のいたずらだ。
ジローのことを子どもだとか言っていたけど、成田さんも同じくらい子どもだよ。
僕のことをからかって楽しもうとする成田さんの思い通りにさせたくない。
そう思い、僕の真似をする成田さんの真似をして見せる。