きっと『倉本裕一郎』という一人の人間として、今まで通りに接してほしい。そう考えているのではないだろうか? と。


「……? どうかしましたか?」
「……! な、何でもないです! あの、お茶、ありがとうございます」
「いえ、どういたしまして」
「いただきます」
「はい、どうぞ」


 ――……結果的に、恋幸の推測は正しいものだった。

 背もたれに体を預けて珈琲の入ったカップを口元へ運ぶ裕一郎はいつも以上に(おだ)やかな声で言葉を(つむ)ぎ落とし、珍しいことに、彼の口元に浮かんだ三日月は彼女が(まばた)きを5回して緑茶を飲み終えた後もその形を保ったままである。