そして、一切バランスを崩すことなく恋幸の隣に腰掛けると、センターテーブルの上にトレーを置いてから緑茶の入っているマグカップを彼女の前に差し出した。


「どうぞ」
「あっ、ありがとうございます……!」


 社長直々に淹れて頂けるなんて光栄です、お手を(わずら)わせてすみません!
 喉まで出かかったその言葉を、恋幸はふと我に返って飲み込み、胃の中で溶かしながら静かに裕一郎の横顔へ目線を向ける。


(……多分、違う)


 何となくの“直感”でしかないが、彼は恋幸に『社長』として扱われることを望んでいない。そんな風に思ったのだ。