星乃が言い終えても、あたりは静まり返ったままだった。

 みんなどう思っているんだろう。もしかしたら中庭の片隅の銅像の事になんて興味がないのかもしれない。美術部員の戯言だと一笑するかもしれない。

 星乃は俯いて、祈るように胸のあたりで両手を握る。
 その静寂を破るように俺は手を叩いた。乾いた拍手の音が体育館に響く。

 すると、他にも誰かが拍手する音が聞こえた。それに釣られるように、ぱらぱらと手を叩く者が現れ、やがてそれは大きな拍手となって体育館に響いた。

 朝礼が終わり、生徒達は各自の教室へと引き上げていく。そんな中、星乃が俺の姿を見つけ出してそそくさと駆け寄ってきた。

「蓮上先輩、さっきはありがとうございました」

 他の人に聞かれないよう、星乃はこっそりお礼を言う。実は、先ほどの演説の際に、まっさきに拍手をするよう事前に頼まれていたのだ。

「友達のいない私には到底できない芸当なので」

 だとか言われて。
 要は仕込みである。他にも信頼できる俺の友人にも頼んだ。

 釣られて拍手をする者が現れて、流されるままに星乃の提案に賛同してくれる事に期待したのだが、どうやら上手くいったみたいだ。

「最終的に他の奴らも君の言葉に共感したんだろう。今になって不満が噴出しないのも、大袈裟じゃなく、さっきの演説に説得力があったからじゃないのか? それに、最初に拍手したのは俺だけじゃない」

 俺が視線を向けた先には、美術部の顧問である教師の姿。
 それを見た星乃は目を瞠る。そして小さな声で

「どうして……?」

 と呟いた。

 星乃は自分の事をぼっちだとか言ってたが、この学校にも彼女の事を気にかけてくれる人間はちゃんといるみたいだ。星乃自身は意外だったみたいだが。

 けれど、俺はその事実に安堵に似た気持ちを抱いた。