突然の美咲の申し出に、瑞樹は照れていたことも忘れて、間抜けな声を上げてしまう。

「私、瑞樹君の心意気と丁寧な仕事ぶりに感動しちゃった。だから、私も瑞樹君の仕事を手伝う!」

 正に名案といった面持ちで、美咲が瑞樹の目を見つめる。
 そして今度は、瑞樹の方が信じられないものを見るような目を美咲に向けた。

「あの……お気持ちはうれしいですが、僕も好きで勝手にやっていることですので……。別に手伝っていただく必要はないですよ。期末テストも近いですし」

 暗にお引き取りくださいという意を込めて、瑞樹は美咲に答える。
 正直なところ、書庫で女子とふたりきりとか、全力で遠慮したい。瑞樹にしてみれば、何その(ばつ)ゲーム、といった状態だ。

「遠慮しないで。私も自分がやりたいから手伝うってだけだし。それに期末テストが近いのは瑞樹君も同じ。ふたりでやって、さっさと終わらせて勉強しよ!」

「いや、確かにふたりの方が早く終わるかもしれませんが……。でも、さすがに藤枝さんに悪いと言いますか……」

「ごちゃごちゃ言いっこなしだって! 別に悪くなんかないから」

 そう言って、美咲は瑞樹の手を取り、机の方に引っ張っていく。
 一方、いきなり手をつながれた瑞樹は、頭の中が大混乱だ。というか、一瞬、意識が飛んだ。おかげで、ろくに抵抗もできないまま、あっという間に椅子に座らされてしまった。

「さあ、瑞樹君! 早くやろうよ!」

 そのまま瑞樹の対面に座った美咲は、期待の眼差(まなざ)しを向けてくる。
 これは、瑞樹のトークスキルでどうにかできる問題ではなさそうだ。言葉だけで説得できるイメージがまったく()かない。そして、瑞樹には無理矢理お引き取り願うような度胸(どきょう)もない。

「……ああ、はい。わかりました」

 ()みを(さと)った瑞樹は、やれやれとため息をつきながら返事をした。

 どうせ気まぐれにやってみたくなっただけだろうから、一日やれば満足するだろう。

 そう思いつつ、瑞樹はノートパソコンを引き寄せ、美咲に振る仕事の準備をする。

「それじゃあ、僕はシステムにデータの打ち込みをするんで、藤枝さんはリストを見ながらバーコードシールと背ラベルを本に貼っていってください」

 リストを見て、タイトルを確認しながら、決まった位置にシールを貼っていくだけ。これなら初心者の美咲に任せても、大きなミスは発生しないだろう。仮に貼る位置が少しくらいおかしくなっても、本の貸出には影響しない。何なら、瑞樹があとでダブルチェックを行えばいい。

「オッケー! 任せといて。じゃんじゃん貼っちゃうよ!」

 瑞樹は心の中で、なんだかおかしな人だ、と思う。だけど同時に、少しだけこの状況を楽しんでいる自分がいるのも感じていた。

 たまにはこういう日も悪くはないか。

 少し調子が狂うと感じつつもそんなことを思いながら、瑞樹は自分の仕事に取りかかるのだった。