「いじめじゃないですよ。誰かに押し付けられているんじゃなくて、僕が勝手にひとりで引き受けているんです。さっきも言った通り、ボッチで暇なので」
「そう……なの? でも、なんでそんなこと引き受けてるの? 暇だからって言っても、ほとんど毎日だと大変でしょ」
「まあ、それはそうなんですが……。でも、長くても一日一時間くらいですし、本当に何もない日はそのまま帰っていますよ。それに、誰かの役に立てるのは、単純にうれしいじゃないですか。それで理由は十分かなって……」
瑞樹は、気取った様子もなく、ただ当たり前のことといった態度で言う。これは自分がやるべきことと信じて疑わない顔だ。
美咲は、呆れたような、それでいて何やら納得したような顔でクスリと笑った。
「そっか……。今も変わらず、君は本当に〝正義の味方〟みたいな人だね」
「今も変わらず? すみません、何のことですか?」
「ううん、何でもない」
意味深な言葉に瑞樹が問い返すと、美咲はそれをサラッと受け流してしまった。
「とにかく、瑞樹君がこんなところに隠れて、コソコソ何をやっていたかはわかった」
「なんだか引っかかる言い方ですね。別にいいですけど」
誤解を招きそうな表現に、瑞樹が心外だと言わんばかりにむくれる。
すると美咲が、「アハハ、ごめんね」と軽い調子で謝ってきた。
「ねえ、瑞樹君。その机にある本って、瑞樹君が今から作業する本? どんなことするの?」
「それは新しく買った本なので、図書室のシステムに登録して、バーコードシールと背ラベルをつけます」
こんな感じで、と瑞樹は昨日のうちに作業が終わっていた本をブックトラックから抜き出して、美咲に渡す。
受け取った美咲は、その本をまじまじと見つめた。
表紙にバーコードシール、背に請求記号が書かれた背ラベルが、傾いたりすることなく綺麗に貼られている。
ブックトラックに並んだ他の作業済みの本も同様だ。美咲がブックトラックに近付いて見てみると、背ラベルが傾いていないのはもちろん、貼られている高さもぴったり揃っているのがわかった。取り出して比べてみると、表紙のバーコードシールも位置がきっちり揃っている。
本をブックトラックに戻した美咲は、感心した様子で息をついた。
「うん、やっぱり瑞樹君は偉いと思う。普通、裏方作業を一手に引き受けるなんてできないもん。それに、ここにある本だけ見ても、瑞樹君がどれだけ丁寧に仕事をしているか伝わってくる気がするし。本当にすごい」
「それは……どうも」
美咲のほめ称える言葉に、瑞樹は居心地悪そうに視線を逸らす。ここまで真正面から裏方作業のことをほめられたのは初めてなので、照れくさいのである。
「ねえ、瑞樹君。この仕事、私もお手伝いしていい?」
「……は?」
と思ったら、腰に手を当てた美咲が、妙なことをのたまい出した。
「そう……なの? でも、なんでそんなこと引き受けてるの? 暇だからって言っても、ほとんど毎日だと大変でしょ」
「まあ、それはそうなんですが……。でも、長くても一日一時間くらいですし、本当に何もない日はそのまま帰っていますよ。それに、誰かの役に立てるのは、単純にうれしいじゃないですか。それで理由は十分かなって……」
瑞樹は、気取った様子もなく、ただ当たり前のことといった態度で言う。これは自分がやるべきことと信じて疑わない顔だ。
美咲は、呆れたような、それでいて何やら納得したような顔でクスリと笑った。
「そっか……。今も変わらず、君は本当に〝正義の味方〟みたいな人だね」
「今も変わらず? すみません、何のことですか?」
「ううん、何でもない」
意味深な言葉に瑞樹が問い返すと、美咲はそれをサラッと受け流してしまった。
「とにかく、瑞樹君がこんなところに隠れて、コソコソ何をやっていたかはわかった」
「なんだか引っかかる言い方ですね。別にいいですけど」
誤解を招きそうな表現に、瑞樹が心外だと言わんばかりにむくれる。
すると美咲が、「アハハ、ごめんね」と軽い調子で謝ってきた。
「ねえ、瑞樹君。その机にある本って、瑞樹君が今から作業する本? どんなことするの?」
「それは新しく買った本なので、図書室のシステムに登録して、バーコードシールと背ラベルをつけます」
こんな感じで、と瑞樹は昨日のうちに作業が終わっていた本をブックトラックから抜き出して、美咲に渡す。
受け取った美咲は、その本をまじまじと見つめた。
表紙にバーコードシール、背に請求記号が書かれた背ラベルが、傾いたりすることなく綺麗に貼られている。
ブックトラックに並んだ他の作業済みの本も同様だ。美咲がブックトラックに近付いて見てみると、背ラベルが傾いていないのはもちろん、貼られている高さもぴったり揃っているのがわかった。取り出して比べてみると、表紙のバーコードシールも位置がきっちり揃っている。
本をブックトラックに戻した美咲は、感心した様子で息をついた。
「うん、やっぱり瑞樹君は偉いと思う。普通、裏方作業を一手に引き受けるなんてできないもん。それに、ここにある本だけ見ても、瑞樹君がどれだけ丁寧に仕事をしているか伝わってくる気がするし。本当にすごい」
「それは……どうも」
美咲のほめ称える言葉に、瑞樹は居心地悪そうに視線を逸らす。ここまで真正面から裏方作業のことをほめられたのは初めてなので、照れくさいのである。
「ねえ、瑞樹君。この仕事、私もお手伝いしていい?」
「……は?」
と思ったら、腰に手を当てた美咲が、妙なことをのたまい出した。