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 瑞樹(みずき)は、夢を見ていた。

 よく晴れた、しかし吹く風は肌を刺すように冷たい、冬の日のこと。
 瑞樹には、これが自分ではない誰かの記憶だとわかった。今、自分は誰かと感覚を共有している。なぜか、そう理解できた。

 そして、自分が意識を共有している誰かは――今、命の危機の中にいた。

 激しい動悸(どうき)と胸の痛みで、座っていることはおろか、目を開けていることさえできない。目をギュッと閉じ、落ち葉が()き詰められた地べたに倒れて、もがき苦しんでいる。

 だが、その時だ。

「ちょっと! 大丈夫ですか!?」

 意識の外から声が聞こえてきて、体が起こされる感覚がする。
 体の持ち主が薄く目を開いたのか、ぼんやりと人影が見えた。誰かが、この人を助けようと、抱き起こしてくれたようだ。
 体の持ち主は、荒い息をつきながら、差し出された手を握り締める。
 共有された感覚から、体の持ち主が精一杯の力で手を握っていることが伝わってくる。瑞樹は、この人が必死に生きようとしていることを感じ取った。

「大丈夫ですよ! あと少し、がんばってください!」

 また、助けに来てくれた人の声がする。同時に、瑞樹は体が持ち上げられるのを感じた。

「誰か、すぐ来てください! この子を助けてください!」

 助けを求める叫び声を、薄れていく意識の中で聞く。そして、抱き上げられた体が、どこかへ運ばれていく。

 ああ、これでこの体の持ち主は助かるだろう。

 そんなことを考えているうちに、瑞樹の意識は深い(やみ)へと()まれていった。

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