終業式が終わり、明日から俺たちの学校も夏休みを迎える。
外では炎天下だというのに運動部の掛け声が聞こえ、青春の汗を流しているところだった。
一方、俺たちはクーラーの効いた図書室で、雑談に興じていた。
しかし、その内容は雑談と言うにはあまりにも理解が追い付かず、いきなり彼女の口から発せられた疑問に俺は首を傾げるばかりだ。
だが、そんなことは全く関係ないと主張するように、彼女は話を続けた。
「私はね、ずっと夏が嫌いなんだよ」
さも当たり前のように、自然な口調でそう告げる彼女。
そんな彼女に対して適切な相槌を打てるはずもなく、俺はただ黙って彼女の話の続きを待つしかない。
「だから、もし私が願いを一つだけ叶えるのだとしたら、二度と夏が来ないようにしてほしいって神様に頼むつもりでね」
そんな俺の態度を考慮してくれたのか、彼女は淡々と話を進める。
「なかなかいいアイディアだと思うんだけど、慎太郎くんが夏が好きで、もしこのお願いが成就されてしまうようなことになったら、私は悪い事をしちゃうことになるからね。先に謝っておこうと思ったんだ」
やはり、彼女の言っていることは、俺には理解できなかった。
「ただ、そうだね……」
そして、視線を向ける俺に向かって、彼女は微笑を浮かべながら、こう告げたのだ。
「それとも、私が消えてしまえばいいのか……」
それは、酷く悲しく、そして何かを諦めているような、そんな声色。
だが、この時の俺は、彼女が結局何を言いたかったのか理解するのを諦めていた。
きっとまた、この人の抽象的な自己表現なのだと、気にも留めていなかった。