屋上に出ると2月の外気温は体に痛いくらいの刺激を与えた。寒さに震えながらも冬の澄んだ空気を吸い込み、思い切り深呼吸する。冷たい風もなぜか心地いい。この何もない大きな空が癒しだった。

「また遅刻だなー」

「!」

 その声にドキッとして振り向くと、屋上のドアの上、そこから顔を出した蒼生(あおい)くんの姿があった。

「蒼生くん、もう来てたんだ」

 その場所は人ひとりが寝転がれるくらいの余裕があって、蒼生くんのいつもの定位置。高さが結構あるのに、どうやって登っているんだろうといつも思う。


「担任が大騒ぎで新菜のこと探してたぞ」

「えー、ホントー!?」

 うわ……めんどくさい。

「ぷっ、その嫌そうな顔。またお母さんと喧嘩したのか?」

 蒼生くんの言葉にピクリと反応する。

「……」

 家のこととか、ママのこととか、何も話したわけじゃないのに、蒼生くんは私のことどこまで知っているんだろう……。